柳は緑 花は紅 (30)
空には満天の星。
「ふわぁぁ」
見上げて、悟空は感嘆の声をあげた。
キラキラと輝く星はいまにも零れ落ちてきそうで、受け止めるように両手を差し伸べる。
「きれぇ……」
余すところなくその目に映そうと悟空はあちこちにと視線を動かした。
「……そんなに上ばっか見てると、ひっくり返るぞ」
三蔵が声をかけた途端、タイミング良く……といってはなんだが、「わっ!」という声とともに悟空は尻餅をついた。
だがなにが楽しいのか、くすくす笑うとそのまま地面に寝転がる。
「すげぇな……」
そしてもう一度、感嘆の声をあげる。
「三蔵、三蔵」
地面に寝転がったままで、悟空は三蔵を呼ぶ。
「こーしてるとホントすげぇぞ。三蔵もやってみろよ」
くいくいと法衣の裾を引っ張られて、三蔵は眉間に皺を寄せる。
「なー、三蔵ってば」
だが、しつこく呼ばれて溜息をつくと、悟空の横に同じように寝転がった。
視界いっぱいに広がる星空は、悟空の言う通り、確かにちょっと感動するくらいに綺麗だ。
ここは寺院の裏山で、人家などないから余計に星の輝きが強く、綺麗に見える。
そういえばこんな風にただ星空を見上げるなど、一体どのくらい振りのことだろう、と三蔵は思う。
ただ、星を綺麗だと思って見上げたのは――もう思い出せないくらい昔のこと。
「三蔵、織姫と彦星ってどれ?」
しばらくして、悟空が問いかけてきた。
「俺が知るか」
「えー? そうなの? なんだ、三蔵が知ってるかと思ったのに。ちゃんと聞いとけば良かった」
悟空が唇を尖らせて不満そうな顔をしているのが、見なくても三蔵にはわかった。
「ま、いっか。こんだけ晴れてるんなら、会えたよな、きっと」
「お伽話だろ、それ」
「むぅ。夢がないな、三蔵は」
「なくて結構。そろそろ帰るぞ、猿」
三蔵は起き上がる。
「えー、もう?」
「明日は三仏神の命で早く出なきゃならんといっといただろ。お前がまだここにいてぇんなら――」
「一緒に帰る」
ぽんっと、弾みをつけて悟空は飛び起きた。
「一緒がいい」
そういって法衣の袂を掴む悟空の頭を、三蔵は無言のままくしゃりと撫でた。
――今夜は七夕。願い事は……。