柳は緑 花は紅 (32)


「なんかぴりぴりする?」

元気に遊んでの帰り道。
寺院への道を急ぎながら悟空は自分の腕を見た。

少し赤くなっているような気がする。
気がつかないうちに擦り剥いた、というのとはちょっと違うようだ。

なんだろ?

「三蔵」

たかたかと悟空は執務室に駆け込んだ。
この時間ならまだ三蔵は執務室にいるだろう、そう思って。

予想は当たったが。

話しかける前に、スパーン、という音とともに、衝撃が頭を襲う。

「う〜」

いきなりハリセンをかまされて、悟空はしゃがみ込んだ。

「なにすんだよ、もうっ」
「入るときはノックをしてからにしろ」
「口でいえよ、そういうことは」
「何度いってもわかんねぇだろうが。現に今、お前がやったことは?」
「う〜」

三蔵の言葉に言い返すことができず、悟空は唸り声をあげて上目遣いで三蔵を見上げる。
それは小動物が拗ねているようで、たいそう可愛らしいのだが、本人はまったく気付いていない。
なんとなく三蔵は溜息をつき、悟空に聞く。

「で、なんだ?」
「なにが?」

きょとんとした表情が浮かぶ。
どうやら先程のハリセンで、駆け込んできた理由が飛んでしまったらしい。

はぁ、と今度は大きく三蔵は溜息をついた。

「それは俺の台詞だ。なんかあって来たんじゃねぇのか? ホントに猿だな、お前」
「なんだよ、それっ」

ぷぅ、と膨れながらも悟空は立ちあがって三蔵に腕を見せる。

「なんかぴりぴりするんだけど」
「あぁ、日焼けだな」

ざっと腕を見て三蔵が答える。

「日焼け?」
「ずっと太陽を浴びてると、そうなる」
「そうなの? いままでへーきだったよ」
「急に日射しが強くなったからな」

雨の季節は過ぎて、これから夏に向かうこの時期は急に日射しがきつくなる。

「あまり日向に長時間いるなよ。それ、火傷の軽いもんだから、あまり焼きすぎるとあとで痛くなるぞ」
「ふぅん」

あんまりよくわかっていないように、悟空は自分の腕を見る。

「猿だから、一度痛い目に合わねぇとわかんねぇか」
「もうっ! だからなんなんだよ、それっ」

もう一度膨れる悟空の頬を、三蔵はつつく。

「長時間、日射しのしたにいるとほかにも気分が悪くなったりするからな。ちゃんと覚えておけよ」
「あ、うん……」

物言いがあんな風ではわかりにくいが、気遣ってくれているらしい。

「わかった」

悟空は、にぱっと嬉しそうに笑みを浮かべた。