柳は緑 花は紅 (37)
暑い……。
むぅ、と眉間に皺を刻みつつ、三蔵は徐々に目を開いた。
ぼーっとした視界の片隅に、茶色の塊が見える。
猿か。
そう思い、また目を閉じようとして。
はっとしたように、三蔵は目を開いた。
「……」
無言のまま、胸のあたりにいる悟空を見下ろす。
ミンミンと鳴く蝉の声が騒がしく聞こえる夏の昼下がり。
じっとしてても、じわじわと汗が出てくる。
それなのに。
なんで猿とくっついて寝てなくちゃならねぇ。
三蔵は眉間の皺を深くした。
「おい」
声をかけて起こそうと試みる。
だが、悟空は微かにむずかるような表情を浮かべるだけで、まったく起きる気配はない。
「起きろ、猿」
揺すってみるが、反応は同じだ。
三蔵は少し考え、ものすごく不本意そうな顔をしながら自分から離れようとして。
クッと引かれるような感じを覚えた。
さらに視線を下にやると、肩から抜いた法衣の袖を悟空の手がしっかりと握っているのが見えた。
冬の間、悟空を湯たんぽ代わりに布団に入れていたこともあったのだが、三蔵があまり人に触れられるのを好まないのを知っているせいか、自分からここまでくっついてくることはなかった。
それにどちらかというと、あれは『ひとり』を淋しがる悟空を見かねてのことで。
いつもは笑っているばかりの子供だが、たまにひどく怯えたような表情を見せることがある。
特に『雪』がダメらしく、ひとりで震えていた。
いまの悟空は、そんな様子は欠片もなく普通で――というよりもむしろ幸せそうに寝こけていて、ほっとするのと同時に、なんだが腹立たしさを覚える。
一瞬、法衣を脱ぎ捨てていってやろうかと思うが。
相変わらず大福のようにぷにぷにした頬を見ているうちに、それもなんだか馬鹿馬鹿しく思えてきた。
三蔵は、ふっと肩から力を抜いて起き上がり、少し汗ばむ悟空の頭に撫でるように手を置いた。
本堂の開け放った扉から、微かに涼しさを含んだ風が吹き込んできた。