柳は緑 花は紅 (46)


呼ばれたような気がして悟空は目を開けた。

夜だというのに、辺りが明るいのは、窓から差し込む光が強いからか。

今日は満月だと聞いた。
一年のうちでも月がとても綺麗に見える日。

という説明を聞いたときには目の前の月餅の方が気になって、月のことなどあまり意識してなかったのだが。

悟空は寝台の上に身を起こした。
先程から聞こえる呼び声は外から――上空から聞こえるような気がする。
ふたつ並んだ寝台の隣で眠る三蔵を起こさないよう、悟空は足音を忍ばせて窓に近づいた。

そっと窓を開ける。
きらきらと、本当にそんな音がしそうなほど、明るく光る月が目に飛び込んできた。

「きれぇ……」

思わず呟いたとき。

――おいで。

今度ははっきりと声が聞こえた。

――還っておいで。

泣きそうなくらい懐かしい感じ。

思わず手を伸ばしたとき。ぐっと体が後ろに引かれた。
ぽふんと柔らかな衝撃があって、温かく包まれる。
と同時に、視界の端を腕が掠め、パタンと窓が閉まる音がした。

あれ? と思って視線をあげる。
と、そこに。
夜空に輝く月よりも綺麗な姿。

ふわりと悟空は微笑んだ。
なぜだかとても安心して――そうしたら、急に眠くなった。
重力に引かれるようにまぶたが降りてくる。

「たい……よ……う」

微笑んだまま呟くようにいい、すぅっと悟空は眠りに落ちた。
そんな様子を三蔵はしばらく見下ろしていたが、やがて悟空を抱き上げて寝台に戻り、ほとんど恭しいという仕草で寝台に横たえた。――悟空のではなく、自分の方の寝台に。

それから三蔵も横になった。
自身の体で月の光を遮るように。
しっかりと悟空を抱え込むように。



(memo)
2009/10/03は中秋の名月です。