柳は緑 花は紅 (56)


ひらり、ひらりと、外では雪が舞っていた。

この冬初めての雪。

その白いものを見ているのはどうしても怖くて、そしてそんな姿を三蔵に見せるのを嫌で、悟空は寝室にと逃げ込んだ。

――三蔵にはもうとっくに知られているとわかってはいたが。

強いあの人の隣に立つには、強くなくてはならない。
なのに。
こんなにも弱い姿を見せるのは本当に嫌だと思う。
思うのだが――。

雪を見るとどうしても怖くなる。

すべてのものを白一色に塗り潰す雪。
なにもかもが真っ白に変わるなか、ただ自分だけがそれに同化できずに取り残される。

ただひとり。

ただひとりなのだということを、孤独を、しんと静まり返った世界で強く強く意識させられる。

だから。
雪は嫌いだ。

外を見ないように頭からすっぽりとシーツを被り床にうずくまった悟空は、そっと自分自身を抱きしめるように自分で自分の腕を掴んだ。
するとシーツが揺れて、ふわりと微かな香りが鼻腔をくすぐった。

三蔵――。

このシーツは勝手に三蔵の寝台から拝借したもので、だから三蔵の匂いがするのは当たり前なのだが。
まるでふわりと抱きしめられたような気になる。
前にぎゅっとしてもらったのと同じように、ふっと肩から力が抜けた。

まだ怖いのは怖いけれど、でも。

ひとりじゃない。
三蔵がいるんだ、とふいに目が覚めたようにわかった。

そろそろと、かじかんだ両手を自分の前にと持ってくる。
はぁ、と息を吹きかけて暖める。

去年は雪が降ると怖いばかりで、それ以外のことはなにも感じなかった。
でも、今年は『寒い』と感じる。
少しだけ。本当に少しだけ、なにかが身のうちで変わり始めているような、そんな気がする。

それはきっと三蔵がくれたもの。
三蔵と過ごした日々が胸のうちに積み上げられているから。

――ひとり、じゃ、ない。

悟空はぎゅっと手を握りしめた。



(memo)
2009年12月7日は大雪です。