Vinculum (5)


離れの扉を開けると、その光景に一瞬言葉を失った。
夜の闇が忍び込む、灯りのついていない暗い部屋。中はまるで霧がたちこめているかのように、白く霞んでいた。その白い霧が微かに光っているのだろうか。ここには月の光は届いていないはずなのに、うっすらとではあるが、何故か中の様子はわかる。
入ってすぐのところに放心したかのように座り込んでいる人が一人。
狩人ハンターだ。
まだ若い。といっても、江よりは年上だ。二十歳をすぎたばかりといった感じか。

「夢だよ」

宙を見据える虚ろな目に手を当てて囁いた。

「ここであったことは夢だ。だから、大丈夫」

ゆっくりとまぶたが閉じていくのがわかった。力が抜ける体を支えて、床に横たえた。

「江」

江が、風のように横を通り過ぎていった。
有無も言わさず飛び込んでいく、意表をつく早さの江の攻撃は、だが、相手に受け止められた。

「江。退いて」

部屋の真ん中にと進んでいく。
そこには、一段と濃い霧に隠されていたが、人が一人――いや、二人いた。
一人は気を失って、床にと倒れている。
血の気を失った白い顔。

「なんでこんな酷いことをするの?」

部屋の真ん中で静かに佇む影に問いかける。
江がまるで守ろうとでもいうように、俺の前に立った。

「江。それじゃ、逆。俺が江を守るんだから。江の守護者ガーディアンは俺だろ?」

いつも確かめるように繰り返される言葉を口にする。
何があっても、江が大丈夫なように。

魔物デーモン相手ならばな」

だけど、静かに返された言葉に少し驚く。

「……江、わかっていたんだ」
「そこまで鈍くはない」

ゆらりと影が動いた。江の体に緊張が走ったのがわかった。

「江、駄目だよ。守護者ガーディアンには狩人ハンターの攻撃はきかない」

そっと江の肩に手を置いて押し留める。
目の前にいる影から受ける気は、魔物デーモンではなく守護者ガーディアン
それなのにどうして、狩人ハンター守護者ガーディアンを狙ったのだろう。
守護者ガーディアンの役目は守ることなのに。

「どうせ離れるのなら、最初から契約など交わさない方がいいでしょうに」

疑問に答えるかのように、静かな声が響いた。