Vinculum (6)
急に目の前が暗くなった。
そして、浮かび上がる、金色の髪の――。
「金蝉……?」
いや、違う。あれは。
「江」
静かに横たわる体。もうこちらを見ることはない目。名前を呼んでくれることのない唇。
「江……」
膝が震え出す。立っていられなくなって、無意識のうちにその場に座り込んだ。
これは幻。
わかっている。
だけど、いつかは必ず訪れる。あの時と同じように、必ず。
「斉天大聖」
声が響いた。
「あなたは失うということを知っていながら、どうして再び
狩人の手をとれるのです? 永い悠久の時を生きる我々にとって、
狩人との契約など、ただの暇つぶしに思えと?」
なじるように言いながらも、悲しみが滲む声。
あぁ、そうか、と思った。
「違う……よ」
震える声を励まして、言葉を紡ぐ。
「金蝉が死んだとき、もう二度とこの世界には関わらないと思った。何人もの
狩人が俺を呼んでいたのは知っていたけど、ずっと耳を塞いでいた。だけど」
あまりにも鋭く眩しい金色の光に呼ばれた。
暗闇の中。それは、目を向けずにはいられぬほど強く輝いていた。
「江の声は全部を越えて届いた。それでも、最初は答える気はなかった。でも……」
差し出された小さな手。
その手を振り払うことはできなかった。
「それは、
狩人が幼かったから仕方なく、ではないのですか?」
「違う。確かに、幼かったけどね」
幼い、というか。
まだほんの赤ん坊だった。生まれたばかり、と言ってもよかった。
泣いていた。己の存在を主張するかのように。だけど、そばに立ったときに泣き止んだ。そして、求めるように手を伸ばしてきた。
「誰かに預けることもできた。でも、それをしなかったのは、手をとった時には選んでいたからだよ。例え――」
幻に目を向ける。
「置いていかれることがわかっていても、ね」
その瞬間、背中が暖かくなった。
「江」
背中から抱きしめられているのだとわかった。