Vinculum (7)


ぎゅっと強く抱きしめられる。
そういえば小さな頃、こんな風にすがるように抱きついてきたことが何度かあったな、と思った。
まったく物欲の無い子で、何を取り上げられても文句のひとつも言わなかったのに、ただひとつだけ。俺がどこかに行こうとするたびに、こんな風に抱きついてきた。

「あなたは大切な人を亡くしたんだね」

目の前の守護者ガーディアンに話しかけながらも、手をあげて、江の腕に重ねる。
大丈夫だ、というように。どこにも行かないから大丈夫。
それがわかったのか、小さな――俺さえも聞こえないのではないかという小さな声で、江は俺の名を呼び、コツンと頭を俺の肩に預けてきた。

「でも、だからといって、こんなことをしても何も変わらない」

床に横たわる影に目をやる。
可哀想な狩人ハンター守護者ガーディアン。心にどれほどの衝撃を受けたのだろう。
狩人ハンター守護者ガーディアンが結ぶ契約は、生半可な気持ちでするものではない。
一度した契約は、何があっても、狩人ハンターの生命が尽きるまで続くのだ。
狩人ハンターが持っている能力は、魔物デーモンを滅ぼす、ただそれだけだ。それ以外は普通の人間と変わらない。つまり、狩人ハンターは、魔物デーモンからの攻撃を防ぐ手段を持たない。
だから守護者ガーディアンがいる。狩人ハンターを守護するために。その生命を守るために。
狩人ハンターにとっては、自分の生命を預ける相手。
いい加減な気持ちで契約ができるわけがない。
だから、狩人ハンター守護者ガーディアンの間には、特別な絆ができる。
その絆が強ければ強いほど、最期を共にすることはないのだと思い知るのは辛いだろう。狩人ハンター守護者ガーディアンは同じ時を過ごせないから。最期の時の喪失感は、どちらの側にたっても言葉には表せない。

「最初から契約などしなければ、こんな思いをすることもない。むしろ、私は救ってあげるのです。自分では何もできない狩人ハンターの都合に振り回される守護者ガーディアンを」

守護者ガーディアンの言葉が聞こえる。そう言いながらも、その目に宿るのは悲しみだけだ。
思い出す。
ずっと、名前だけを呼んでいたことを。
答えてくれないと知っていながら、ずっと、名前だけを呼んでいたことを。
金蝉、と。
今でも鮮明に蘇るその痛みは、きっとずっと消えることはない。
だけど。
軽く江の腕を握ってから、そっとその抱擁から抜け出す。
守護者ガーディアンへと手を伸ばした。
ふっ、と守護者ガーディアンが笑みを浮かべたのが目に入った。