dearest…(4)


「生きてる……?」

どこか呆けたような声を、悟浄はあげた。
信じられないかのように、自分の手を見つめる。手を、そして足を、自分の体を。
どこも欠けているところはない。

炎が向かってくるのが見えた。
もう終わりだと覚悟を決めたのに。

「……あなたは……?」

と、耳に、同じく呆然としたような八戒の声が聞こえてきた。
顔をあげると、こちらに背を向けドラゴンに対峙するかのように、宙に、小柄な人影が浮いているのが見えた。

人――というか、あれは。

守護者ガーディアン……?」

「やぁっと、呼んだね、こう

と、ぱっと、その人影がこちらを振り返った。
小柄な体つきから想像するとおり、まだ子供っぽさが残る顔がそこにあった。
大きな金色の目がひときわ目をひく。

「……っと、言いたいことは、またあとで。とりあえず」

もう一度、くるりと向きを変え、少年は、ドラゴンと正対する。

それでわかった。
光。
炎の直撃を受ける前に包まれた、爆発するような光。
あれはこの少年が作り出したものだと。

狩人ハンターを守護する光――守護者ガーディアン

だが、それはなんという力の強さだろう。
ドラゴンの攻撃を防ぐなど。

「お前の職務はわかっているし、それを侵したことについては詫びよう。二度としないとも誓う。だから、今回だけは見逃してはくれないか?」

すっと姿勢を正し、静かにドラゴンに語りかける声には、先ほどみせた子供っぽい様子はどこにもない。
ただ、圧倒的な力を感じる。

――できぬ、と言ったら?

「こちらに非があるとはわかっているが、お前を排除する。江を傷つけるものは、それが誰であろうと容赦はしない」

沈黙が降りた。
目に見えぬ力が均衡しているかのように、どちらも動こうとはしない。

「あの……」

その均衡を破るかのように八戒が口を開いた。
ドラゴンに向かって語りかける。

ドラゴンが守るのは、知の扉ですよね? 僕たちは扉の前にすら到達していない。その中を侵すことはしていません。そして、キィがないのに、こんなことをするのは、本当に今回限りと誓います。ですから、このまま見逃してくれませんか? あなたとこの方が戦ったら、たぶん……というか、確実にこの方が勝ちます。そうなったら、知の扉を守るものがいなくなってしまう。あなたの本分は、知の扉を守ることでしょう?」

八戒が口を閉じたあとも、しばし沈黙は続いた。
だが。

――都合の良い言い分だが……今日のところは引くことにしよう。確かに、わたしが守らねばならぬのは『知の扉』。その勤めを放棄することはできない。

「すまない」

少年の謝罪の言葉を受け入れるかのように、ドラゴンは微かに首を振ると、現れたときと同様、一瞬にして、掻き消えた。巻き起こる風とともに。
そして。

「江っ!」

緊張の糸が切れたのか。
江流が地面にと崩れ落ちた。