The Apple of the Eye (3)
熱いシャワーをあびて、人心地ついたような気分になった。ちょっと大げさだけど。
服を着ようとして、脱いだところにないことに気付いた。あれ? と思ったが、洗濯機の音がしていた。
どうすんだよ、こんな格好で。
確かに雨で湿ってたからまた着るのはちょっと嫌だったけど、でも、洗濯するなら代わりの服くらい出しておいてくれてもいいのに。
とりあえず浴室から出て、家主にかけ合おうと思ったところ、バタンと扉が閉まる音がした。
出かけちゃったの?
慌てて玄関の方に向かう。確か、こっち。
広いリビングを横切ろうとしたとき、家主と鉢合わせした。どうやら出かけたのではなく、出かけていて帰ってきたところだったらしい。
「そんな格好でうろつくな」
低いテーブルの上に白いレジ袋をおきながら、腰にバスタオルを巻きつけただけの俺の方を見て金髪さんが言う。
「それとも、誘ってるのか?」
ふっと意地悪げな笑みが浮かび、手が伸びてきた。
抱き寄せられ、キスされた。
「……なんで、こんなこと、するの?」
力が抜けたところを更に抱き寄せられた腕の中、綺麗な顔を見上げて訊いてみた。
「したいから」
答えになっているんだか、なっていないんだかの言葉に、はぐらかされたような気分になってちょっとムッとする。なので、嫌味っぽく言ってみた。
「それにしても、無用心だよね。見も知らぬ他人が家にいるのに、買い物に行くなんて。金目のモノを持って俺が逃げたらどうするつもりだったの?」
「逃げなかっただろう?」
余裕たっぷりの言葉に、ますますムッとする。
「キス、してほしいのか?」
突き出した唇に、唇が重なってきた。
なんで、そうなる?!
抗議しようとしたが、まるで弄ぶかのように舌を絡めとられて、立っていられなくなる。少し押されて、近くのソファーに倒れ込んだ。
ふと、目を開けると間近に綺麗な顔があった。
目の色は紫なんだと気付く。深い紫。なんだか、吸い込まれそう。
心臓が早鐘を打ち出した。
「震えているな。怖いか?」
何と答えたらいいのかわからなくて、黙って見上げていたら、優しく頬を撫でられた。そして、また唇が近づいてきた。
だから、そっと目を閉じた。