The Apple of the Eye (5)


朝の光が差し込んできて、目が覚めた。
目に映る光景が見知らぬもので、一瞬、パニックを起こしかけるが、キラキラと輝く金色の髪が目に入り、ここがどこかを思い出した。
そろそろと起き上がる。
なんか自分の体なのに、思うように動かない感じ。
結局、昨日は風呂場でもしちゃったからなぁ。
痛いだけだったのに、途中から凄く気持ち良くなってきて、もうわけがわからなくなって、細身なのにしっかりと筋肉のついた体にしがみついていた。

三蔵。

その名前。何度、呼んだんだろう。
ゆっくりと足を床につけて立ち上がる。そして、三蔵を見下ろした。

眠っていても、綺麗。

これが最後だから、しばらくじっとみつめていた。
魂の奥まで見透かされそうな紫暗の瞳が見れないのは残念だけど。
浴室の脱衣所に置かれた乾燥機に向かう。そこから、服を取り出して身に着けた。

ずっと、そばにいたい。

三蔵が起きたら、そんな言葉を口走って困らせそうな気がした。

ただの通りすがり。
ちょっと情けをかけただけなのに。

迷惑そうな顔をされたら、たぶん立ち直れない。そして今、地面に膝をついたら、二度と立ち上がれない。
それは駄目だ。
だから、そのままそっと抜け出した。もう一度三蔵の顔を見たかったけど、起こしちゃうかもしれないから。

マンションの廊下を辿って、エレベータホールに向かい、エレベータで一階に降りた。
まだ早いからだろう。誰にも会わなかったし、外の通りにも誰もいなかった。
マンションを見上げた。

あそこに、三蔵がいる。

それがわかっているのに、もう二度と会うこともないのが冗談のように思えた。
ふっとため息をついて、向きを変える。折角だから、あの公園を通って行こうと思った。
初めて、三蔵に会ったところ。

いきなりキスされて、最初は何なんだって思ったけど。
優しくしてくれた。
それだけで十分だった。

まだ残っている手の感触も、煙草の香も、なによりも綺麗なあの顔も、前に進むためには忘れなきゃいけないけど。
三蔵という名前と、優しくしてくれた、そのことだけは覚えておこうと思った。

「さて、今日こそ仕事みつけなきゃ」

パシンと両手で頬を叩いて、気合を入れる。まっすぐに顔をあげて、駅前へと向かった。