The Apple of the Eye (7)


時が止まってしまったかのようだ。三蔵と目が合った途端、動けなくなった。
綺麗な紫暗の瞳。
こんなにも恋焦がれていたことを、初めて知った。

「どうかしましたか、三蔵?」

訝しげな八戒の声がして、ふいっと三蔵が視線を外した。
魔法がとけたような感じがした。そんな風に感じているのは俺だけだろうけど。
三蔵はもうこちらを一瞥することもなく、横を通り過ぎて八戒の方に歩いていく。

当たり前だ。
ただの通りすがり。もう、俺のことなど忘れているのだろう。
それは、わかっている。でも、目が離せなかった。
「どうした、悟空? 三蔵があんまりにも美人だから見とれているのか? でも……」

上から悟浄の声が降ってきた。片手で抱きしめなおされて、もう片方の手で強引に顎を掴まれて、悟浄の方へと向かされた。

「ちゃんと俺を見てくれないと拗ねちゃうゾ」
「もう、おやめなさい、悟浄。それ以上、悟空に手を出したら怒りますよ」

悟浄の声も八戒の声も遠くから聞こえてくるようだった。

三蔵、三蔵、三蔵――。

視界が歪みはじめた。
「嫌なら抵抗しろ」

近くで声がした。と思った途端、腕を引かれて悟浄から離される。勢いあまってたたらを踏んだところをぽすっと抱きとめられた。

三蔵の腕の中だ。
思わず、ほっと安堵のため息が出た。
すると、三蔵の腕に力が入り、もっと近くにと引き寄せられた。びっくりして顔をあげると、綺麗な顔が近づいてきた。

「……さんぞ、なんで、いつもいきなり……」

三蔵が支えてくれなかったら立っていることもできないほどのキスの後に呟いた。

「したかったから」
「それ、三度目」

呆れて見あげると、三蔵の顔に何か面白いことをみつけたような表情が浮かんだ。

「お前がして欲しそうだったから」

その台詞に、頬に熱が宿った。耳まで赤くなったのがわかる。

「三蔵っ!」
「帰るぞ」

抗議の声も聞いちゃいない風の三蔵に抱き上げられた。

「どうせ歩けねぇだろう」
「三蔵、お持ち帰りしてもいいですけど、明日のシフトの時間までに戻してくださいね」

目の前で起こったことにも驚いていないようで、のほほんと八戒が声をかけてきた。

「知るか。そこの河童でも働かせとけ」

三蔵はそう言い捨てると、俺を抱きかかえたまま、店の扉をくぐった。