The Apple of the Eye (8)


マンションの玄関の扉を開けるとすぐ、待ちかねたかのように抱きすくめられた。
体の芯が熱くなる。三蔵の腕の中にいる、ただそれだけなのに。

「ふっ!」

耳朶を甘噛みされて、思わず体が跳ねた。熱くて、熱くて。溶けてしまいそう。

「いい反応。悟浄あたりに鍛えられたか?」

だが、意地悪げな口調に一瞬にして熱は消え去った。

「な……で……」

唇が震える。涙が溢れてきた。

「悟空?」

三蔵が驚いたように目を見開いた。
たぶん冗談めかした言葉だったのだろう。
だけど、誰とでもこんなことをしているのだと言われたようで、悲しくなった。

「悪かった……」

ふわりと抱きしめられた。背中をぽんぽんと軽く叩かれる。その手はとても優しくて――。
涙が止まらなくなった。

「ごめ……」

唇を噛み締めて、息を殺す。
あの言葉だけでこんなに泣くなんて、三蔵に変に思われる。涙、止めなくちゃ。
でも、一度崩れたものを戻すのは容易ではなく、ますます強く唇を噛み締めた。

「我慢するな」

すると、唇の上に指が置かれた。

「泣きたいなら、泣いちまえ」

見下ろしてくる目はとても優しくて――。
もう、駄目だった。

「三蔵っ!」

すがりついて、泣きじゃくった。
ずっと堪えていたのに。
泣いてしまえば、心が砕けてもう立てなくなると思っていたから、ずっと泣けずにいたのに。
優しく抱きしめてくれる腕の中。もう、涙を止めることはできなくなった。

だけど。
だけど、それは弱くなるということではなく。
三蔵がいれば大丈夫のような気がした。何もかも大丈夫のような気がした。
泣いてもまた立ち上がれる。

三蔵がゆっくりと頭を撫でてくれていた。
その手を感じているうちに、悲しくて泣いているのに、不思議と安らかな気持ちになってきた。

「三蔵、大好き……」

そっと呟いた。