To Know Him is to Love Him (4)


本当に唇が触れるのかと思った。
そう考えただけで、嫌だと思った。
どうしてだかわからない。前はそうじゃなかった。そうじゃなかったはずなのに。
だけど、唇に触れられる感触はなく、代わりに肩を掴まれて凄い勢いで後ろに引かれた。勢い余ってバランスを崩したところを支えられて、がっちりと抱え込まれる。

「三蔵……」

見上げる三蔵の表情は不機嫌そのもの。
でも、その腕の中にいることがわかって、ほっと力を抜いた。

「――誰だ、お前」

と、三蔵の不機嫌さが伝染したかのように、焔がむっとしたような声をあげた。
そして、二人は睨み合う。
何だか火花が散っているような二人の様子に、慌てて口を挟んだ。

「あの、あのね、三蔵、あの人、焔って言ってね、金蝉の友達。で、焔、この人は三蔵で、えっと、今、一緒に暮らしている――」

うわっ。どうしよう。顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。
だって、口に出して他人に言ったことなんてなかったから。

「こ、恋人」

なんだか恥ずかしくなって、顔を伏せる。すると、三蔵に更に強く抱きしめられた。
その手の確かさがとても嬉しくて、自然に笑みが浮かんできた。

「悟空、お前、自分で何をしているのかわかっているのか?」

が、何だか怒りを押し殺したような焔の声が耳に届いて、顔をあげた。

「どこの誰だか知らんが、よくこんなに金蝉にそっくりのヤツを見つけてきたな。しかも『恋人』だと? そいつを自分の傍に繋ぎとめるための手段か?」

焔が険しい顔でこちらを見ていた。

「金蝉が死んで、悲しくて辛いのはわかる。だが、こんなことをして現実から目をそらしても何にもならないぞ。目を覚ませ、悟空。お前は、そいつに金蝉の影を重ねているだけだ。そいつは金蝉じゃない」

確かに金蝉が死んで、寂しかった。悲しかった。
だけど。

「言っていることの意味が全然わかんねぇよ、焔。三蔵は金蝉じゃない。そんなのはわかってる。なのに、現実から目をそらすって何だよ。それに、俺の傍に繋ぎとめるための手段って……」
「つまりは、俺がお前の保護者に似ていて、たまたまその保護者が亡くなって寂しい想いをしているときに会ったから、保護者の代わりに傍にいてほしくて、今の関係になったと言いたいのだろう」

質問の答えは焔ではなく、三蔵から返ってきた。

「確かに、こいつは最初から何ひとつ、抵抗らしい抵抗はしなかったが」

三蔵の言葉に息が止まった。