To Know Him is to Love Him (5)


目の前が暗くなっていく。
三蔵は、焔の言葉を信じたの?
金蝉に似ていれば、誰とでもあんなことをすると――?

「だが、それは誰でもいいというわけじゃない。俺だったからだ」

続いた言葉に思わず三蔵を見上げた。
なんだか不敵な笑みを浮かべている。揺ぎない自信。なんだって、この人は――。
すると、視線に気付いたのか、三蔵がこちらを見下ろした。
その綺麗な顔がだんだんと近づいてきた。そして、柔らかな感触が唇に伝わる。
ただ触れるだけのキス。だけど、三蔵とキスすると気持ち良くて、ふわふわしてしまう。
委ねた体を改めて柔らかく抱きしめられる。こういう時の手は優しくて凄く安心できる。

「お前のときとは反応が違うだろうが」

三蔵のちょっと意地悪そうな声が響く。

「それは、いきなり横から手を出されて離れされたからだろう。それに、それくらいのキスならいつもしてたぞ」

焔の言葉にピクリと三蔵が反応する。
ので、ちょっとあせって口を挟む。

「それは、昔の話だろっ!しかも、いつも無理矢理だったじゃないかっ!」
「最初はな。だが、そのうち抵抗しなくなったし、それこそ最初から本気で抵抗はしていなかったろう」

だって、それは。

「いい加減、目を覚ませ、悟空。俺と来い」
「やだ」

手を上げて、体の前で組まれた三蔵の袖口を掴む。

「だいたい、いつも勝手なんだよ、焔は。何にも言わないで、いきなりイギリスに行っちゃっうし」
「あれは突然転勤が決まったから仕方ないだろう。あとでちゃんと説明しただろうが」
「行っちゃってからじゃ遅いよ。普通、先に言うだろ。その後の連絡だって数回だし」
「仕方ないだろう。忙しかったのだから。そんなことより、お前はそのことを拗ねていたのか?それならそうと言えばいいものを」
「違う。結局、焔にとって、俺はそれくらいの存在なんだってこと。ちょっと遊びで手を出したくらいの……。それに、焔が本当に好きなのは、俺じゃなくて金蝉だろう」

泣きたくなる。
焔がいきなり消えた時の。
焔が本当に好きなのが金蝉だと気付いた時の。
そのときの気持ちを思い出して。
だけど。

「三蔵っ!」

いきなり、三蔵の手が離れていったのを感じて、それは絶望にと変わる。
やだ、三蔵。やだ。
袖口を掴んだ手に力を込めた。