Little Ordinaries (4)


車に寄りかかって、海に沈む夕日を眺めていた。

「すっげぇ」

辺りがオレンジ色に染まっている。暖かで柔らかな色。

「なんか、ウマそう」
「まだ食うか」

隣で呆れたかのような声がした。

「なんだよ。海って言ったら、焼きそばだろ、イカ焼きだろ、焼きハマグリだろ」
「それ、この間の夏祭りでも食ってたろうが」
「夏祭りに、焼きハマグリはないっ!」

そう主張する。が、返ってきたのは「はい、はい」とでも言いたげな表情。思わずムッとする。

「そろそろ帰るぞ」

あやすように、ポンポンと頭を軽く叩かれた。

「もう? まだ、全部沈んでない」
「渋滞に巻き込まれるだろうが」

むー。
でも、仕方ないか。運転すんの、三蔵だし。渋滞って疲れるって言うし。

「ね、三蔵。また来ようね」
「お前、受験生だろう」

甘えるように言ったのに、答えがそれでまたムッとする。

「その受験生を最初に誘ったのは、自分だろうがっ!」

と、腕を捕られて引き寄せられた。

「……三蔵って、いつも突然キスするのな。こんなところで、誰かに見られてたらどうすんの」

柔らかく抱きとめられた三蔵の腕の中で呟いた。
三蔵にキスされると、いっつも体から力が抜けちゃうんだよな。気持ちよくて、ふわふわして。

「誰も見ちゃいねぇよ。周り中、カップルだらけだ」

あー。世界は二人のためにってやつ?
でも。
もしかして、俺たちもその中に入るのか?

「馬鹿みたいだって思ってたんだけど」

思わず呟く。三蔵が怪訝そうな顔をした。

「恋にうつつを抜かすなんて、馬鹿みたいって思ってたんだけど」

三蔵に、にっと笑いかけた。

「でも、悪くないね」

三蔵が、ふっと笑みを漏らした。

「あぁ。悪くねぇな」

そしてまた唇が近づいてきた。
目を閉じる瞬間、視界の隅に沈む夕日の最後の輝きが映った。