Little Ordinaries (6)


「三蔵、カレー、ここに入れておいたから。それからチンするだけのグラタンとかスパゲッティも入ってるよ。あと、食わないと思うけど、キッチンの棚にカップラーメンもあるし」
「何の話だ?」

ダイニングテーブルで新聞を読んでいた三蔵が顔をあげた。

「だから、ご飯。ちゃんと食べてね。あ、八戒のトコに電話しておこうか……って、まさか、三蔵」

もの凄く不思議そうな顔をしている三蔵を見て、嫌な予感がして、一旦言葉を切った。

「もしかして、忘れてる? 俺、明日から一週間、夏期講習の合宿だって言ったよね?」
「……聞いていない」
「言ったよ。ナタクのトコの予備校、外部生も受け付けてるからって。三蔵、保護者欄を書いて、印鑑だって押したじゃん」

三蔵の眉間に皺が寄った。どうやら思い出したらしい。

「だから、明日早いから、俺、今日は自分の部屋で寝るね。朝は勝手に出てくけど、朝ごはんだけ作っておくから。お昼からは――」

と、突然、立ち上がった三蔵に腕を掴まれた。

「一週間? 明日から? 信じらんねぇ。そういうことは前もって言え」
「だから、言ったって。カレンダーにだって書いてあるじゃん」

ビシッと掴まれていないほうの手でカレンダーを指し示す。ちゃんと丸をつけて「合宿」って書いてある。
それを見た三蔵は眉間の皺をますます深くして、いきなり俺を抱き上げた。

「え? ちょ……、三蔵?!」

そのままスタスタと寝室に向かう三蔵に慌てて声をかける。
これは、まさか……。

「三蔵っ!」

ベッドに落とされ、三蔵がのしかかってくる。

「だから、ダメだって。明日、早いし、合宿だぞ。アトなんか、つけてたら……」

なんとか三蔵の体の下から逃れようともがく。が、両手首を片手で掴まれて、頭の上にと固定されてしまう。三蔵が綺麗な顔を近づけてきた。

「一週間だぞ。そんなに俺に触れないで、お前は大丈夫なのか?」

もう片方の手が、優しく額の髪の毛をかきあげる。

……ズルイ。

そんなに綺麗な顔を近づけて、優しく触れて、甘く囁いて。
これじゃ、抵抗なんかできない。

「アトはつけないでね。それから、明日は早いから……」
「わかってる」

三蔵がふっと笑った。世にも綺麗な笑顔。

でも、本当にわかってるのかなぁ。

一抹の不安を覚えつつ、柔らかく降ってくるキスの甘さに酔いしれていった。