Little Ordinaries (8)


「何、拗ねているんだ?」

三蔵が本を片手に、ソファーの隣に座った。

「拗ねてないもん」

ぎゅっと、クッションを抱きかかえた手に、無意識のうちに力が入った。
三蔵がため息をついた。

「その顔のどこが拗ねていないって?」

……確かに、拗ねてるけどさ。
むぅっとした顔のまま、反論できなくてクッションに顔を埋めた。すると、また、三蔵のため息が聞こえてきて、髪の毛をくしゃりとかき混ぜられた。

「だって、三蔵、出かけたまま、帰ってこないし」

お昼食べた後、ちょっと出てくるって言って、帰ってきたの夕方だし。
そんなの、ちょっとじゃないもん。

「今日は、夏休み、最後の日なのに」

さらに強く顔をクッションに押し付けた。

「……だから?」

しばらく降りた沈黙の後、怪訝そうな三蔵の声がした。
顔をあげると、『理解に苦しむ』とでもいうような表情が目に入った。
もう。どうして、わかんないかな。

「だから、今日は夏休み最終日なのに。一日中、一緒にいられる最後の日なのに」

そう言った途端、三蔵が呆れたような顔をした。

「お前、馬鹿だな」

でもって、あろうことか、そんなことまで言い出す始末。
……どうせ、そんな風に思うのは、俺だけもん。
ぶいっと体ごと三蔵に背を向けた。
と、腕を掴まれて、引っ張られた。後ろ向きのまま、三蔵の方に倒れこんでしまう。
視界がくるりと回って、見えるのは天井と、三蔵の綺麗な顔。
えっと、この体勢って。……膝枕?

「別に、一日中一緒にいられるのが今日限りってわけじゃないだろうが。そんなの、普通の休みの日にいくらでもできる。だが、そんなにひっついていたいなら、夕飯までこうしててやるよ」

三蔵はそう言うと、本を開いた。が、すぐに意地悪そうな目つきで見下ろしてきた。

「それとも、ここで押し倒した方が良かったか?」

その言葉に、反射的にいろんなことが頭の中を巡って……。耳まで赤くなる。
三蔵は、そんな俺の様子を面白そうに眺めて、またくしゃりと髪の毛をかき回すと、視線を本に戻した。
もう、ホントに意地悪だ。

でも。
こうやって、三蔵の側にいれるなんて。
今年はいい夏休みだったな――。
綺麗な三蔵の顔を見上げながら、しみじみとそう思った。