Little Ordinaries (9)
窓を揺する風の音と、叩きつける雨音。
いつにない大音響は台風がきているから。でも、眠れないのはそのせいじゃない。
何度目かの寝返りをうつ。目を閉じて、抱えた枕に顔を押しつけて、眠ろうと努力する。でも、駄目。全然、眠気は訪れない。
なんだか、とても不安で、怖くて。どうしてこんな風に感じるんだろう。
ぎゅっと枕を抱える。
ちょっと前に、三蔵が出先から電話をしてきた。台風で交通機関が麻痺しているから、今日は八戒のところに泊まると。
考えてもみれば、こんな風に突然一人で眠ることになるのは、三蔵と暮らし始めてから初めてのことだ。三蔵がいない日はいつも前もってわかっていた。だから覚悟もできた。
覚悟?
一人で眠るだけのことなのに。子供じゃないのに。
でも。
三蔵、三蔵、三蔵。
枕に顔を強く押しつけた。
と、突然、頭に手が置かれた感触がした。
「自分の部屋にいないと思ったら、こっちか」
そして、声がした。今、一番、聞きたい声が。
「さ……んぞ……?」
びっくりして、枕から顔を上げると、目の前に三蔵が立っていた。
「三蔵っ!」
その胸に飛びこんだ。
「濡れるぞ」
しっかりと抱きとめてくれながらも、三蔵は言う。見上げると、髪の毛から雫が滴っていた。
「なんで? 八戒のトコじゃ……」
「電話であんな泣きそうな声をされたんじゃ、な」
三蔵はベッドに転がっている枕に視線を投げた。
「俺の代わりに抱いていたのか?」
その言葉に顔が赤くなる。だって、抱いていたのは三蔵の枕。それとここは三蔵のベッド。三蔵の匂いがするから少しは安心できると思った。でも。
「本物の方が全然いい」
ぎゅっと抱きしめた。
「だから、濡れるぞ」
頤に手がかかって、上を向かされた。三蔵の顔には楽しそうな表情が浮かんでいた。
「ま、どっちみち脱がすから関係ないが」
「三蔵っ!」
抗議の声はキスで封じ込められた。でも、とても優しいキス。
ずっと、一緒にいて。ずっと、その腕の中で眠らせて。
キスに溺れながら、切に願った。