Little Ordinaries (13)


ふと目が覚めると、自分の部屋のベッドの上だった。頬に柔らかな感触。ぼーっと目を向けるとなんだか白いものが目に入った。
耳?
……ぬいぐるみ?
――ぬいぐるみのウサギだ。ぎゅっと抱きしめていた。

えぇっと?
三蔵が帰ってくるのを待ってて、寝てしまったのだろう。で、たぶん、三蔵がここまで運んでくれたんだと思う。でも、このウサギのぬいぐるみは……?

何だかよくわからないが、見てても答えは返ってこない。それに喉が渇いた。
ベッドから降りて裸足のままぺたぺたとキッチンに向かった。
途中でリビングを何気なく覗いて、そこに三蔵がいるのに気付いた。
明かりもつけず、窓際に座って、杯を片手に外を見ている。

見ているのは、月――?
窓から差し込む柔らかい月の光が三蔵を包み込み、なんだか三蔵自体が輝いているみたい。
そこはかとなく近寄りがたい雰囲気で、声をかけることもできずに見つめていたら、不意に三蔵がこちらを振り返った。

そして。
一瞬、心臓が止まった。

綺麗。

凄く、綺麗。

「どうした?」

優しい声。片手があがり、招くように差し伸べられる。まるで魅せられたかのようにふらふらと三蔵の方に歩いていった。
掴まれた手を引かれ、素直に三蔵の腕の中に崩れ落ちた。

「怖い夢でも見たか?」

そっと三蔵の指が頬を滑っていき、自分が泣いていることに初めて気付いた。

「三蔵……」

顔をあげると、三蔵の優しい笑みが目に映った。

「大丈夫だ」

言われて、胸に顔を埋めるように抱きしめられる。
そして、ゆっくりと頭を撫でてくれる。

でも。
本当は、三蔵を見ていて悲しくなったのだと知ったらどうするだろう。

こんなに近くにいるのに。
どうして。

あまりにも綺麗で、胸が痛んだ。
空に浮かぶ月に還るかぐや姫みたい。
この人をこの地に留めておくにはどうしたらいいんだろう。
背中にまわした手にぎゅっと力を入れた。