Little Ordinaries (14)


「ね、三蔵。10月4日って、天使の日だって知ってた?」

呼吸も落ち着いてきた頃、ベッドに突っ伏したままで尋ねた。軽い疲労感。なんだか心地良くてこのまま眠ってしまいそう。

「何だ、それ」

と、三蔵が予想通りの答えを返してきて、思わずクスッと笑う。

「俺も最初見たとき思った。電車の車内吊りにあったの。10と4だからみたい。ゴロ合わせって面白いね」

ちょっと伸びをしてから、肩越しに三蔵を振り返る。
あぁ。やっぱり、綺麗。本当に綺麗。

「三蔵なら真っ白い羽が似合うだろうな、って思った」

そう言ったら、途端に三蔵が嫌そうな顔になった。それも予想通りで、笑いが込みあげてきた。
クスクスと笑っていたら、すっと三蔵に背中を撫でられた。

「羽ならお前の方が似合うだろうが」

ちょっとびっくりして笑いが止まったところに、三蔵が覆い被さってきた。

「肩甲骨は羽の名残り……か」

呟きとともに、柔らかい感触が背中に押し付けられる。

「突然、目の前に現れて……。お前の方こそ、ここに羽が生えていてもおかしくない」

「さん……」

言葉が発せられるたびに背中に微かに吐息がかかり、思わず身を竦める。と、確かめるように辿っていた唇が不意に離れ、突然、後ろからぎゅっと抱きしめられた。 

「どこにも行くな。どこにも飛んで行くな」

耳元で囁かれた言葉に驚く。
どうしてだろう。いつか置いていかれるかもしれないと思っているのは俺の方なのに。
三蔵もそんな風に感じることがあるのだろうか。

「三蔵」

抱きしめられた手をとって、指先にキスをした。

「俺は天使なんかじゃないよ。そんな曖昧な存在じゃない。ちゃんと生きてここにいる」

指を絡める。
そうすることで、三蔵と繋がるように。

「どこにも行かない。ここにしか俺の居場所はないから。三蔵こそ、離さないでね」

「悟空」

強い力で手が握り返される。

繋いだこの手が離れることがないように。
ずっと。これからもずっと、離れることがないように。
祈りを込めて、もう一度指先にキスをした。