Little Ordinaries (15)


「ただいま」

玄関のところでそう言って、自分の部屋に荷物を投げ込むと、とりあえずリビングに向かった。
三蔵は、帰ってきた時にわざわざ玄関まで出迎えにきてくれることはないけど、よっぽど忙しくない限り、たいていリビングかキッチンにいる。待っていてくれてるようで、ちょっと嬉しい。それは『おかえり』の言葉の代わりみたいなもの。

「ね、三蔵、今日の夜は外食でもいい?」
「構わないが。はしゃぎすぎて疲れたか?」

リビングで新聞を読んでいた三蔵が、笑いを含んだ声でそう言って顔を上げた。

「そういうわけじゃ……」
「お前、それ、どうした?」

理由を説明しようとしたら、血相を変えた三蔵の声に遮られた。

「騎馬戦で落ちた。あ、でも折ったとかいうわけでなくて、擦り傷だから。コレは保健の先生が大袈裟にしてくれただけ」

手の甲から肘まで包帯をした腕をひらひらと振ってみせる。
今日は体育祭だった。ウチの学校には受験生には怪我のないように、とかいう考えはなくて種目の一つに騎馬戦があった。となると、必然的に俺は上に乗る役目になる。で、体当たりをかまされて潰された。

「大丈夫なのか?」
「あ、うん。なんかヘンな落ち方をしたらしくて、結構派手に擦っちゃったんだよね。四、五日はちゃんとしたご飯、作れないかも」
「それは、いいが……。不便そうだな」
「利き手だしね」

今のままじゃ鉛筆も握れない。ま、明日になったら、とっちゃうつもりだけど、包帯。

「ま、いろいろと手伝ってやるよ」

へ?

なんだか楽しげな笑いを浮かべている三蔵の方を見る。

手伝う? 普段、そんなことしてくれないし、しそうにもないのに。

「風呂とか。洗うの、大変だろ」
「さんぞっ!」

何を考えているんだよ、この人はっ!

「そんなの、一人で大丈夫だよ。片手で十分」
「背中とか、髪とかは? 傷、濡らさない方がいいぞ」

うー、うー。

「……背中と髪だけだからな」

一頻り唸り声をあげた後でそう言うと、三蔵がクスリと笑って立ち上がった。

「メシ、食いにいくぞ。着替えてこい」
「三蔵っ!」

リビングから出て行く三蔵に呼びかけるが、答えはない。
大丈夫かなぁ。なんだか不安で一杯になりながら、三蔵の背中を見送った。
(→おまけ)
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