Little Ordinaries (17)
ふわりと抱きかかえられた感触がした。
三蔵?
そう言ったつもりだったけど、なんだか自分でも訳のわからない声が出ただけだった。
「寝てろ」
耳元で三蔵の低い囁き声がした。
三蔵の腕の中にいることがわかって安心する。このまま深い眠りに落ちていきそう。
でも、駄目。ちゃんと言わなきゃ。
「……おかえり」
三蔵の顔を見たくて、目をごしごしと擦る。と、腕から何かが転がり落ちた。
それは、白いウサギのぬいぐるみ。
「お前、よっぽどソレが気に入ったみたいだな」
俺を抱きかかえたまま、三蔵は器用に床に転がったぬいぐるみを拾い上げる。
「だって、触り心地がいいから」
小さくあくびをして答える。
「さすがにウサギ好きのおじさんが選んだだけのものはあるよね」
そう言って受け取ろうとしたが、三蔵はぬいぐるみを掴んだまま離そうとしない。
不思議に思って顔を上げると、なんだか怖い顔をした三蔵と目が合った。
「コレ、あいつからか? あの白衣の」
八戒の喫茶店の常連客の一人に白衣で、ウサギのぬいぐるみを持ち歩いている、ちょっとアブナイ感じのおじさんがいる。って言っても見た目ほどヘンじゃないんだけど。
「三蔵、知らなかったの? ま、俺も知らなかったけど。てっきり三蔵が買ってくれたのかと思ってたから」
と、床に下ろされて、ぐいっと引っ張られて、ぬいぐるみを取り上げられた。
「ちょっと、三蔵、何をするんだよ」
「これは返してこい」
「やだっ!」
ぱっとウサギを取り返した。
「折角、三蔵がくれたものなのにっ!」
三蔵の目が驚いたように見開かれた。
「お前、さっき、白衣のヤツからプレゼントだって自分で言ってなかったか?」
「言ってない。選んだのはあのおじさんかもしれないけど、くれたのは三蔵だもん。だから、この子は三蔵からのプレゼント」
「言っていることが支離滅裂だぞ」
くすりと三蔵が笑い、再び抱きかかえられた。
「支離滅裂じゃないよ。三蔵が渡してくれたっていうところが大事……って、三蔵、俺、もう眠くないけど」
寝室に向かう三蔵に声をかける。と、涼しい顔で三蔵が答えた。
「別に、ベッドの上でするのは眠ることだけじゃない」
……もう、何てことをさらりと言うんだよ、この人は。
呆れつつも、ぬいぐるみともども三蔵に抱きついた。