Little Ordinaries (19)


「孫君、三番テーブルのオーダー、聞いてきて」

奥に引っ込むとすぐに声がかかった。
今日は学校の文化祭の一般公開日。クラスの出し物の喫茶店は、朝から大盛況だった。
まったく、なんでこんなに忙しいんだろ。
いくら外部の人も来てるって言っても、ちょっと人多すぎ。ただの模擬喫茶なのに。
ま、お祭りだから、少し変わったことはしてて、それを『売り』にはしてるけど、でもそれだけで客が来るなんて到底思えない。なんだろ、ホントに。

「お決まりですか?」

ポケットからメモ帳とペンを取り出して言う。

「へぇ、凄い。錯覚しそうだな」

と、聞き覚えのある声がしたので、顔をあげた。
それまで忙しすぎて碌にテーブルの客の顔なんて見ていなかった。

「悟浄」

びっくりする。
それよりもびっくりしたのは、一緒に座っている人間。
にこにこといつもの笑顔を見せる八戒と、凄く不機嫌そうな顔をした――。

「三蔵……」

なんで?

「今日、文化祭だって言ってたんで来ちゃいました」

言葉が出ないほど驚いている俺の疑問に答えるように、笑みを崩さずに八戒が言う。
確かに、この間八戒の店に手伝いに行ったときにそんな話をした。
だけど。

「お客さん、待たせたら駄目でしょ、小猿ちゃん。ちゃんとオーダーを取ってね」

ニヤニヤと笑いながら悟浄が言う。ので、気を取り直して、ペンを取り上げた。

「お決まりでしたら伺います」
「コーヒーを三つ。それと……」

ちょいちょいと指を動かして、悟浄が呼ぶ。
なんだろうと思って近づいた。と――。

「何をする……っ!」

腰に手を回されて、抱き寄せられた。
何故か周囲から上がった黄色い悲鳴を背景音に、乱暴に悟浄の腕を外す。

「近くで見ても、ホント、女の子みたいだな」

感心したような言葉に、改めて自分の格好に思い至り、頬が赤くなる。

「可愛いですよね。今度、ウチでもやってもらいましょうか。あ、でも、セーラー服よりメイド服のが可愛いですかね」

冗談。こんな恥ずかしい格好、お祭り騒ぎでもなければやるわけないだろうが。
それに。
なんか三蔵の視線が怖いんですけど。

「コーヒー、三つですね」

とりあえず営業用の笑みを浮かべ、そそくさとその場を逃げ出すことにした。