Little Ordinaries (21)
教室に戻ると入口のところに人だかりができていた。
今日は文化祭の一般公開日。クラスの出し物の喫茶店にきてくれたものの、仕事があるからとすぐに帰っちゃった三蔵を送ってきたところ。
どういうわけだか、クラスの喫茶店は繁盛してて、あの人だかりも待っているお客さんだろうか。もう交代の時間で良かった、なんて薄情なことが頭に浮かんだ。
「お待たせ」
人だかりのすぐ近くにいた八戒と悟浄に声をかける。二人は三蔵と一緒に来て、もう少し見て回ると言ってくれたので、案内してあげることになっていた。
「お、悟空。ちょうど良かった。二人の真ん中に立って」
近づいていくと、デジカメを持ったクラスの女子に声をかけられた。
言われた通り、八戒と悟浄の間に立つ。悟浄が肩に手を回してきた。
「悟空、そのまま」
むっとして振り払おうとしたが、カメラを構えた女子に止められる。
「あ、もう一人の人、悟空の手を握ってくれないかな?」
八戒がにっこりと笑うと、俺の手をとり、持ち上げて自分の唇の方にと近づけた。
って、何、これ。
「はい、こっち向いて、悟空」
混乱してよくわからないまま、とりあえず声のした方を見る。
眩しいフラッシュの閃光。と、なんか人が集まってきた。
「急いでプリントアウトしてくるから、申し込みはその後でね」
「って、李厘。何だよ、今の」
周囲の人にヒラヒラと手を振って行こうとした女子を呼び止めて言う。
「ちょっとした副業。ウチの部もいろいろキビしくてね」
クイッと顎で廊下の壁を示して李厘が言う。そこに貼ってあるのは。
「何だよ、これ?!」
いろんな写真があるけど、ほとんど俺の写真。
「写真、撮るって言ってあったろ」
「それは卒業写真のためだって言ってたろうが。こんなん、聞いてないぞ」
めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど、こんな格好の写真。
というのも、ウチのクラスの喫茶店。普通じゃつまんないからって男女の制服を入れ替えていた。
「しょうがないなぁ……」
李厘がため息をつき、廊下の隅の方にと俺を連れ出した。
「これ、欲しくない?」
そこでそう言って差し出したのは、三蔵と俺の写真。
「自分でもよく撮れてるって思うんだけど。あ、言っておくけど、脅しじゃないから。もともとこれは展示するつもりはないよ。ただ、お前が欲しいならあげるから代わりに――」
言い募る李厘の手から写真を取り上げた。乗せられた気がしなくもないけど。
でも、写真。三蔵の写真。それは凄く欲しいから。
「わかった」
むぅとした顔をしつつそう言って、しっかりと写真を胸に抱いた。