Little Ordinaries (24)


「着いたぞ」

突然、声をかけられて、はっとして周囲を見回した。マンションの駐車場。いつの間にか所定の場所に車が止まっていた。
文化祭の打ち上げを途中で抜け出して道を歩いていたら、偶然、三蔵に会った。三蔵は終わった仕事を届けに行く途中で、そのまま車に同乗して、三蔵の叔母さんの家まで一緒に行くことになった。
ついたところは凄く大きな家でちょっと驚いた。車のまま門をくぐり、玄関先の車止めで三蔵は車を止めた。外国の家とかホテルみたい。
すぐに戻ると言って三蔵は車を降り、その言葉通り、玄関の扉は三蔵を飲み込むとすぐにまた開いた。
ただ現れたのは三蔵だけではなかった。
凄く綺麗な女の人も一緒だった。

「なんだ、つれないな。夕食くらい食べていけばいいのに」

親しげなそんな声が聞こえ、その女性が不意にこちらを見た。興味深げな表情が浮かんだが、三蔵がいきなりその鼻先で扉を閉め、車に駆け寄ってきた。もう一度、扉が開いたようだったが、そのときにはもう車は発進していた。
誰だろう、と思ったが、すぐに三蔵がよく口にする『ババァ』だと思い当たった。
その言葉とあんまりにもかけ離れている。想像していた三蔵の叔母の像とは、まるで違っていた。
叔母さんというより、年の離れたお姉さんといった感じ。
見たのは一瞬だったけど、凄く綺麗で、それでいて意思が強そうで生き生きとした鮮やかな印象を受けた。

「どうした?」

再度、三蔵から声がかかった。
「何でもない。文化祭、結構たいへんだったから疲れたのかも」
シートベルトをはずして外に出た。

例えば仕事のこととか、叔母さんのこととか。
三蔵が話してくれないことは沢山ある。
でも。
「ね、三蔵」

同じく車から降りた三蔵の方に向かう。

「俺のこと、好き?」

だけど、それでもいいと思わせてほしい。そんなことはどうでもいいんだと。

「本当に好き?」

首に手を回して、少し背伸びする。
どうか、三蔵が俺のことを好きならば、あとのことはどうでもいいんだと思わせて。
目を閉じて、三蔵からのキスを待った。