Little Ordinaries (26)


「お腹、すいた……」

目が覚めて、最初に思ったことはそれだった。

「色気ねぇな、お前」

隣で三蔵の声がした。むっとして睨みつけて付け加えた。

「眠い。体、痛い。起き上がれない」

もう、だって三蔵ったら、何度もスるし、散々無理な体勢を強いるし。

「お前が煽るからいけないんだろ」
「煽ってなんかないよ。いつ煽ったんだよ」
「気持ち良くしてあげたいって言ったのはどこのどいつだ」

うっ……。
だって、それは誕生日のプレゼントに俺が欲しいっていうから。せっかくのプレゼントなんだし。
むくれて三蔵を見上げて、ふと気付いた。

「ね、三蔵、今、何時?」

なんだか陽が高いような気がするんだけど、気のせいだろうか。

「もうすぐ一時だな」

……へ?ってお昼の?

「学校っ!」

今日は平日だぞ。
慌てて起き上がろうとして、ぽふっと三蔵の方に倒れこんだ。

「無理すんな。起き上がれないだろ。連絡ならしてある。風邪、ひいたってな」

しれっと三蔵が言う。

「――受験生、さぼらせて。今日は三蔵の誕生日だから、ご馳走、作るつもりだったのに、こんなんじゃ料理なんてできないし、それより何より、今、お腹すいてるのに動けもしない」

ぶちぶちと文句を言う。
と、三蔵の手が伸びてきた。さらっと髪の毛をかきわけられ、額にキスされた。

「食い物なら、今、簡単なモンを作ってきてやるよ」

するりとベッドから三蔵が降りる。

「散々、美味しく喰わせてもらったからな。その礼に」
「三蔵」

耳まで真っ赤になった俺を楽しげに見て、三蔵が寝室から出て行く。
もう。
あぁ、それにしてもホント、体が重い。
でも、この気怠さは三蔵がもとめてくれた証拠。
そして、体中に残るアトも。
とはいえ、これ、明日までには消えないだろうなぁ。明日は体育の授業があるんだけど。風邪のため見学、だな。
困ったことなのになんだか嬉しくて、膝を抱えてひっそりと笑みを浮かべた。