Little Ordinaries (27)


「ほい、悟空、差し入れ」

休み時間。李厘がやってきて、あんパンと牛乳を目の前に置いた。

「おっ、サンキュー。でも、あの件は譲れないからな」

そう言うと、李厘はうっと言葉につまった。

「あの件?」

前の席のナタクが振り返って口を挟んできた。いつもは強い李厘が押されているのが不思議だったんだろう。李厘がため息をついた。

「写真だよ。こいつ、もう写真を売るのは駄目だって言い出して」
「写真? あぁ、例の文化祭の? まだ売ってたのか」
「結構追加注文があってね。噂を聞きつけた他校の連中とか」
「他校?」

ちょっと待て。あの写真が、ウチの学校内では『例の』で通じるくらい結構出回っていたのは知ってた。でも他校も? それって、本当に不特定多数じゃん。
それはマズい。そんなの知られたら、怒る。今よりぜってぇ機嫌が悪くなる。

「帰りとか他校の連中がうろついてるなって思ってたら、そういうことか」

のんびりとナタクが言う。

「ま、正体はバレてないみたいだけど。ウチの連中、悟空を渡してなるものかって睨みきかせてるみたいだし」
「……なんだよ、それ」

なんか脱力する。

「それより、ホント、禁止だかんな」
「理由は? いまさら駄目だっていう理由」

李厘に詰め寄られて、ちょっと考える。

「……保護者にバレて怒られた」
「保護者って、あの赤毛のお兄ちゃん? バレるも何も」
「はぁ? なんで悟浄が保護者?」
「違うのか? 親しげだったから。それとも翠の目の?」

ぶんぶんと首を横に振る。

「え? じゃあ、金髪の、あの人?」
「金髪?」

ナタクが不思議そうな声をあげる。李厘がナタクの方を向いた。

「あ、そうか。ナタクは生徒会の方に顔を出してたから、見てないのか。写真に写っている二人の他にもう一人、金髪の人がいたんだよ、悟空を訪ねてきたのは。凄い綺麗な人」

そこで、李厘はなんか意味深な笑顔を浮かべた。

「へぇ、そうか。あの人が保護者か。ふーん。ま、そういうことなら、いいや。わかった。写真の販売は今、受け付けてる分でおしまい。それでいいだろ」

それでいいと答えると、李厘は席へと戻っていった。なぜか上機嫌で。
何か察したらしいけど、ま、いっか。どっちかってぇと、三蔵の機嫌が今より悪くなる方が問題だし。
とりあえずほっと息をついた。