Little Ordinaries (31)
「雪だ」
ふと外を見ると、白いものがちらちらと舞っていた。
立ち上がってベランダに続く窓に向かい、窓を開ける。ベランダの手すりがうっすらと白くなっていた。
そのまま、舞い落ちてきて重なっていくのを眺める。
雪。
白くて、儚い。冷たくて――苦手だ。
あの日もこんな風に雪が降っていたから。
「風邪をひくぞ」
ふわりと後ろから抱きしめられた。
「目、どうかしたのか?」
言われて、無意識のうちに手で目を押さえていたことに気付いた。
「何でもない」
ふるっと体が震えた。
「ほら、寒いだろうが」
片手で俺を抱きしめたまま、三蔵がもう片方の手を伸ばして窓を閉める。
震えたのは寒さのせいじゃないけど。
「三蔵、あったかい」
腕の中で、体の向きを変える。
「ね、大丈夫だよ、そんなに心配しなくても。お留守番くらい一人でできるよ」
くすっと笑って三蔵を見上げる。
「子供じゃないんだし。今までだって、三蔵、泊まりで家をあけたこと、あるじゃん」
「だが……」
「平気。たまたまクリスマスと重なっちゃったってだけでしょ」
何でもないことのように言う。
クリスマスに――正確にいえば、23日から25日まで叔母さんの家に行かなくてならなくなったと三蔵に言われた。
「そんなに気にしなくても、本当に大丈夫だって。別にキリスト教徒じゃないんだし。イベントに踊らされなくても」
ぎゅっと三蔵に抱きついた。
「いつでも一緒にいられるから」
三蔵が抱きしめ返してくれる。
窓の外では音もなく雪が降っている。
三蔵の胸に顔を埋めて見えないのに、その存在が確かに感じられる。
雪。
消えない雪。
冷たくて……痛い――。