Little Ordinaries (35)


「なー、三蔵、正月、何食う?」

冷蔵庫の中身を確認しつつ、ダイニングのテーブルで新聞を読んでいる三蔵に声をかける。

「おせち、食べる? お煮しめくらいなら作れるけど」
「正月だからって特別どうということはないだろ。作るの面倒だったらどこか食いに行ってもいいぞ。どうせどっかしらやってるだろ」
「それはそうだけど、そういうことじゃなくて。だって、おせちって一年の無病息災を祈って家族皆で食べるものだろ?あ、でも、三蔵が嫌いなら作らないけど」

と、後ろに人の気配を感じた。

「三蔵、何?」

ふわりと後ろから抱きしめられる。
「……お前、こういうこと、どっから教わってくるんだ?」
「こういうことって?」
「おせちが一年の無病息災を祈って家族皆で食べるものだとか、冬至にはカボチャにゆず湯だとか、そういう季節の行事」

そういえば、冬至の日にカボチャを出したら不思議そうな顔をしてた。その時は三蔵、何も言わなかったけど。

「あぁ。それは金蝉。日本には四季があるんだから、それを大切にって。もっとも全部やってたわけじゃなくて、カボチャを煮たのだのお煮しめだのは、ただ単に金蝉が好きだったからかも」

そう言いながら振り返ると、なんだか拗ねたような表情の三蔵が目に入った。

金蝉に妬いているのだろうか。
可愛い。

そんなこと言ったら、本気で拗ねるか怒るかするだろうけど。
クスッと笑う。

「何でそんな顔するの。三蔵が嫌いだったら作らないって言ってるでしょ。三蔵が好きなものを作ってあげる」

と、三蔵の顔が急に優しくなった。

「三蔵?」
「父がそんなことをよくしてた。亡くなってから、ずっと忘れていた」

耳元で囁くような声が聞こえ、ぎゅっと強く抱きしめられた。

「本当にお前は……」

手放せない。

そんな言葉が聞こえたような気がした。
願望かもしれない。
離れたくないと思っているのは俺の方だから。
三蔵の腕にそっと触れ、このままこの瞬間が永遠になればいいのにと願った。