Little Ordinaries (36)
リビングのドアを開けると、途端に酒の匂いが襲いかかってきた。夕飯の片付けをして風呂に入っている間に、また瓶が増えたような気がする。気のせいかもしれないけど。
ま、何にせよ、明日、片付けるのたいへんそう。起きたらまず換気しなくちゃ。
「俺、先に寝るからね」
部屋にいる面々に声をかける。
「あ、すみませんね。適当なところでお開きにしますから」
八戒がにこにこと笑いながら答える。全然酔っていないみたい。まったくの素面。悟浄なんか床に転がってるっていうのに。で、三蔵は……。
起きてるし、普通そうに見えるんだけど、うーん、これは珍しく酔ってるかも。ちょっと目が怪しい。
お正月。
特にどこに行くわけでもなく、のーんびりと三蔵と二人で過ごしていた。
こんな風に二人きりでゆっくりと過ごすのは久しぶりかもと思っていたところ、携帯が鳴った。八戒からだった。
従兄がカニを送ってきて一人じゃ食べきれないからいりませんか?
と聞かれた。悟浄に運ばせてこっちに来てくれるというので、どうせならご飯でも食べていけばと誘ったところ、そのまま飲み会へと雪崩込んだ。
「……なんだ?」
ちょっと不機嫌そうに三蔵が聞いてくる。
じっと見つめたままだったのに気付き、慌てて首を振る。
「なんでもない」
八戒達が来てから、なんか三蔵は不機嫌で。
三蔵は『二人きり』が良かったのかな。俺は三蔵さえいてくれるならそれで良かったんだけど。
八戒の方に向き直った。
「八戒、客間に布団、敷いておいたから」
「おー、ご苦労」
八戒に言ってるのに、転がっている悟浄が呂律のまわらない口で答える。
「布団が嫌だとか、そこの酔っ払いと一緒が嫌だとかいうなら、俺のベッドを使ってもいいから」
悟浄をちょっと睨んでそう言ってから、三蔵にと近づいた。
「先、寝てるからね」
すりっと頬を擦り寄せて、それから部屋を後にした。
扉を閉める時に、なんだか驚いたような顔で三人ともこちらを見てたけど……。
頬擦りしたのはマズかったかな。でもあの二人の前ではそれ以上のことだってしてるのに。
そう考えたらなんだか頬が熱くなって、手で冷やしつつ寝室に向かった。