Little Ordinaries (38)


駅前でナタクと李厘と別れた。
冬休みの最終日。
混雑を避けて三人で初詣に行ってきたところ。受験生だから、一応、学問の神様にお参りしておいた方がいいだろうと、李厘からお誘いの電話がきた。
絵馬を書いて、お守りを買って。ついでにおみくじを引いて。
不謹慎かもしれないけど、ちょっと楽しかった。
おみくじは末吉。
でも良いんだか悪いんだかわかんないことが書かれていて。

「――待ち人遅し、か」

呟いて、人込みに目をやる。
と、誰よりも目立つその姿を認めた。

暖かそうな、でもなんの変哲もない黒のコートを着てこちらに向かってくる姿。服装だけだったらこんなに目立つはずはないけど、その容姿。
冬の、もう夕暮れの色に染まる、その金色を写し取ったかのような煌く髪。整いすぎていて、冷たさを感じさせる顔。
すれ違う人が十人中十人、振り返る。

俺がここにいるのがもう見えてるだろうに、三蔵は特に急ぐでもなく近寄ってくる。

「待ったか?」
「ううん、そんなには」

やがて目の前に立った三蔵の質問に答え、クスッと笑った。

「何だ?」
「いや、デートみたいだなって思って」

三蔵の眉間に少し皺が寄った。

「メシ、食いにいくだけだろ」

今日、出かけるけど夕飯までには帰ってくるからと言ったところ、だったら待ち合わせして外で食べようということになった。帰ってきてから作るのは面倒だろうと。

「だって、こんな風に外で待ち合わせるのって初めてだろ? さっきの会話といい、本当にデートみたい」

デート、というか、三蔵と一緒に遊びに行くことはこれまでに何度もあった。
たいてい俺が連れてけと騒ぐんだけど。

でも、一緒に暮らしてるんだから当たり前だけど、こんな風に外で待ち合わせることなんて一度もなかった。

「ね、夕飯にはちょっと早いし、その辺、見て回ろうよ。俺、欲しい本があるんだ」
「漫画か?」
「違うよ」

待ち合わせをして、買い物をして、ご飯を食べて。
くだらないかもしれないけど、本当にデートみたいでちょっと嬉しい。

「行くぞ」

一人でにやついていたら、いきなり手を掴まれた。そのまま三蔵は歩き出す。
手をつなぐなんて、本当にデートみたい。

たぶんわかっててやってくれている。
そう思うと凄く嬉しくなった。