Little Ordinaries (39)


夜中にふと目が覚めた。
なんとなく窓の外が明るいような気がして、ベッドから降りると窓の方にと向かった。
カーテンを開けると、冷気を感じた。
それもそのはず。
外は雪だった。
まだ夜は明けていないが、うっすらと積もった雪が街灯を反射するのか。
いつもはところどころが闇に沈んでいる景色が、ぼんやりと浮かび上がって見えていた。

雪。
どうしてだろう。
どうして雪を見るとこんなに不安になってくるんだろう。
今までだって、毎年毎年雪は見てきて。
確かに嫌な感じはしてたけど、ここまで不安に思うことはなかったのに。
だいたいあれは今とはなんの関係もないことだというのに。

でも。
もしかしたらこの目のせいで本当に――。

と、突然、後ろから伸びてきた腕が視界に入った。さっとカーテンが閉められる。
それから、ふわりと抱きしめられた。

「勝手にいなくなるんじゃねぇ。寒ぃだろうが」
「……なに、それ」

なんだか勝手な言い草にクスリと笑う。
そうしながらも腕の中で体の向きを変え、三蔵に抱きつき返した。
そして、もっとちゃんとぎゅってしてほしいと思う。
言葉に出していったわけではないのに、本当に三蔵は抱きしめてくれる。
胸に暖かいものが満ちてきて。

それでわかった。
まだ胸に残る不安はたぶん、今が幸せだから、だ。
幸せだからこそ、それがいつか壊れてしまうのが怖い。
だって、これがずっと続くなんて保障はないから。

「どこへもやらねぇよ」
「え……?」

三蔵の囁きは突然で、自分の考えに深く沈んでいたから、その意味がよくわからなかった。

「――時々、お前はどこか遠くに行ってしまうような素振りを見せる。だが、どこにも行かせねぇ。嫌だといっても、ここに閉じ込めておく」
「三蔵」

あぁ。それだったら、どんなに――。
どんなにいいか。

「三蔵。キス――して……」

『ずっと』という約束が欲しいとはいわない。
だけど、今だけでいいから、それが本当だと思わせて。
願った通りに与えられるキスに、そっと目を閉じた。