Little Ordinaries (40)


「やり直し」

パコン、とノートを丸めたので頭を叩かれた。
なんだか軽快な音で、ちょっと腹立たしい。だって頭の中に何も入ってないみたいじゃんか、これじゃ。

「もう、ポコポコ殴んなよ。頭、悪くなるだろ」
「なるか、これくらいで。それよりお前、注意力なさすぎ」

言われて、返ってきた解答用紙を見る。赤くなっているところは……。

「……あれ?」

計算間違い。しかも、ただの足し算だったり。

「あれじゃねぇよ。さっさとやり直せ」

またパコンと叩かれる。うー。

「三蔵、ちょっと休憩しようよ。おやつ、買ってあるから」
「却下」
「えー。こんなに根をつめて勉強すんの、体に悪いって」
「来週、センター試験だろうが。今、勉強しないでいつする? ったく、集中力もねぇな、お前は」

またまたパコン。

「だから、ポコポコ殴んなって」

ぶつぶつ文句を言いながらも計算し直す。全部やり直して、三蔵に渡して。

「ね、三蔵。大学合格したら、ご褒美にどこか遊びに行こうよ」
「何で、俺が褒美をやらなくちゃならない」

ちょっと期待して言ったのに、素っ気ない答えが返ってくる。

「だいたい大学に行くのはお前の意思であって、俺には何のメリットもないだろうが」
「それはそうだけど」

ちぇ。冷たいの。

「今度のは良し。お前、見直しくらいしろよ」

そう言うと三蔵は立ち上がった。

「三蔵?」
「休憩にしたいんだろ? 飲み物はコーヒーでいいか?」

三蔵が用意してくれるつもりなんだろうか。

「ココア。ミルクで淹れてほしいな」

少しわがままを言ってみる。と、三蔵はちょっと嫌そうな顔をしつつも「わかった」と言って、部屋から出ていった。
なんか嬉しいかも。普段、あんまりこんなことしてくれないから。
ご褒美みたい。って、これって先渡しのご褒美なのかな。なら、もうちょっと頑張んなくちゃ。
うーん、と伸びをしてもう一度机に向かった。

でも、こういうところが三蔵の掌の中なのかも。
そう思ったのは後になってからだった。