Little Ordinaries (41)


ダイニングに入っていくと、眉間に皺を寄せている三蔵の顔が目に入った。

「食べる?」

だから、ポケットから飴を掴み出して、その前に落とした。

「なんだ、これは」
「飴」
「見りゃわかる。どういうつもりだと聞いている」
「だって、ココに皺が寄ってるから。甘いモノ、食べれば消えるかなって」
「……消えねぇよ」

うーん。かなり機嫌が悪そう。
飴の山からひとつを取って、自分の口に入れる。

「それよりこんなのいつも持ち歩いてるのか?」
「隣のクラスの女子がくれたの。これについてるおまけが欲しいんだって。飴は沢山食べると太るからって」

こんなの沢山食べても、腹には溜まんないんだけど。それでも太るんだろうか。

「おまけ、可愛いんだよ。また作ってもらおうか、ストラップ」

そう言うと、三蔵の眉間の皺が深くなった。
なんだが可笑しくなってクスクスと笑っていたら、三蔵に腕を掴まれた。

「可愛いモノはひとつで充分だ」
「あの猫、気に入ったの? この飴、あれと同じシリーズで……」

説明しようと思ったのに、掴まれた手を引かれて唇を塞がれる。

「……何するんだよ、いきなり」
「甘いモノ、食べれば眉間の皺が消えるんだろ」
「俺は甘いモノじゃないって」
「甘いだろうが、充分」
「それは、飴が……」

言おうとして、また顔が近づいてくるのがわかった。
わかったけど、避けることはできない。

「はい。準備できましたよ」

が、ドンという音がして、目の前のテーブルに鍋が置かれた。

「……なんでお前たちがここにいる」

三蔵が不機嫌そうに睨む先には、八戒と悟浄。

「よく言うよ。ずっといただろうが」
「だって、悟空、もうすぐ受験でしょ? 少しでも勉強する時間を作ってあげようと思いまして」

また従兄がカニを送ってきたと言って、お正月と同じく八戒と悟浄が訪ねてきていた。

「何でしたら、毎日でもご飯を作りにきますよ」
「あ、だったら、俺も必殺技、披露しちゃおうかな。あまりの美味さに驚くぜ」

楽しそうな八戒と悟浄に、不機嫌そうな三蔵。
なんだが、平和な日常の風景に思わず笑いがこみ上げた。