Little Ordinaries (42)
「ただいま」
予想に違わずリビングのソファーに三蔵がいた。声をかけて、初めて読んでいた新聞から顔をあげるけど、待っていてくれたんだと知ってる。
「雪、大丈夫だったか?」
「ん。電車、徐行運転してたみたいだけど、ちょっと早めに出たからね」
今日はセンター試験。なのに、よりにもよって雪。ま、天気予報で言ってたから結構早めに家を出たし、俺が使った交通機関はそんなに遅れも出てなかった。
「そうか」
三蔵はそれとわからぬくらいの笑みを浮かべ、また新聞にと視線を戻した。
それでわかった。
心配してたのは、試験のことじゃなくて雪のこと。
一度も口に出して言ったことはないけど、三蔵はきっと俺が雪を苦手としていることを知ってる。
「三蔵」
呟いて、三蔵の隣に腰を下ろす。
「大丈夫だよ。三蔵がいるから大丈夫」
そしてその肩に頭を預けた。
三蔵は何も言ってはくれなかったけど、そのままの体勢でいることを許してくれている。
甘えてもいいんだと知ることは、凄く嬉しい。心が温かくなる。
だから、雪が降って寒くなっても平気。
そう思えた。
「ね、今日の夕飯、冷蔵庫の有り合わせでいい? これから買い物に行くの、面倒だし」
甘えついでにそう言ったところ、三蔵が思いもかけない答えを返してきた。
「夕飯なら、八戒が何か作っていったぞ」
「へ? 八戒、来てたの? ってゆーか、夕飯?」
「お前、きっと疲れて帰ってくるだろうし、明日も試験だし、外食するより家で食べた方がいいだろうからってな。ついでに悟浄も何か置いていったが。菓子だとか何とか」
「悟浄のお菓子って、またカールとかキットカットとかかな。なんか合格祈願のがあるとかってこの間面白がってくれたんだよね」
立ち上がり、キッチンに向かいながら言う。
お鍋の中には美味しそうなシチュー。そしてお菓子を探してきょろきょろしてたら「冷蔵庫だ」と言われ開けてみると。
「わーい。プリンだ。あ、いちごの、期間限定のだ。三蔵も食べる?」
箱から出しながらリビングに向かって問いかけたところ、三蔵の渋い顔が目に入った。
「二人とも、夕飯食べてけば良かったのに」
一つだけプリンを持ってソファーに戻る。
「二人とも忙しいんだろ」
そっと頭に手が回り、くしゃりと髪の毛をかき混ぜられて引き寄せられた。さっきみたいに、三蔵の肩に頭が乗っかる。
やっぱり三蔵は甘い言葉はくれないけど。
とても嬉しくて、少し声をたてて笑った。