Little Ordinaries (44)


「豆まきでもする気か?」

ふらりとダイニングに入ってきた三蔵が、テーブルに並んでいるものを見て言った。

「三蔵、鬼、やってくれる?」

スーパーの袋から鬼のお面を取り出す。

「そんなもんも買ってきたのか?」
「違うって。止める間もなく渡されちゃったから。なんか豆を買ったらもれなくくれるみたい」

今日は節分。貰ったお面を顔にあててみる。

「俺が鬼をやってもいいんだけどね。そしたら、三蔵が豆まきする?」
「するわけねぇだろ」
「だよね」

三蔵が鬼をやるのも、三蔵が豆まきするのも、どっちも想像がつかない。

「ま、どっちにしろ、まこうと思って買ってきたんじゃないけど。してもいいけど、あとで掃除しなくちゃいけないし、うっかり踏んじゃったりするとたいへんだし」

そういえば後になって、思いもかけないところから豆が出てきたりもしたな。
なんか子供の頃のことを思い出す。

「ね、三蔵。三蔵は、子供の頃も豆まきってしなかったの?」

今はしそうにないけど、でも子供の頃なら――。うーん、でも、どうかなぁ。

「三蔵?」

と、なんか三蔵が複雑そうな顔をしているのに気がついた。

「……義父がこういうのが好きで、無理矢理付き合わされてた」
「へぇ。お義父さんが鬼やってくれたの?」
「いや、俺が豆まきをするから一緒にやるという理由をつけて、楽しそうに鬼役のヤツに豆をぶつけてた」

苦虫を噛み潰しているような表情をしているが、目元は優しい。あまりお義父さんのことを話してくれないけど、話すときにはよくこういう表情をする。羨ましいな、と思う。
それに。

「三蔵の子供の頃って見てみたかったな」

両手を伸ばして三蔵の頬に添えて、その顔をじっと見ながら想像してみる。
そうそう性格は変わらないだろうから、可愛らしいって感じじゃなかったのかもしれないけど。でも、美少年だったんだろうな、と思う。
と、三蔵が顔を近づけてきた。

「……三蔵」
「何だ? キスして欲しかったわけじゃないのか?」

いや、違うけど。
でも。

今、この時に、この人の傍にいられること。
それがとても幸せなんだと思う。

「大好きだよ」

だから、笑って自分からキスをした。