Little Ordinaries (49)
コール1回で電話が繋がった。
「もしもし」
とりあえずそう言って、でも、返事も待たずに次の言葉を続ける。
「あのね、合格、したよ」
「そうか」
返ってきたのはあっさりとした言葉。けれど、ちゃんと気にかけてくれていたのはわかってる。だって、普段、あんなに早く電話に出ないもん。
「うん、そう。なんか嬉しいな」
へへ、と笑う。
「良かったな」
「うん。あ、でも、さっきの『嬉しい』は、合格したのがじゃないよ」
「は? だが、お前、そこに行きたがってたろ?」
「うん。だから、もちろん合格したのは嬉しいよ。すっごく」
今日は本命の大学の合格発表の日だった。
張り出された受験番号のなかに自分のを見つけたときの感動と言ったら。ちょっと筆舌に尽し難い。
「でもね、こうやって報告できる人がいるのは、もっと嬉しいなって」
今年、大学の受験はできないと思ってた。
合格しても、電話するところなんてないと思ってた。
――1人だと思ってた。
「三蔵がいてくれて、嬉しい」
「……ったく、馬鹿か、お前は」
本当に嬉しくて言ったのに、答えがそれで。
「む。なんだよ、それ」
見えないのはわかっているけど、反射的に頬を膨らます。
「そんな当たり前のことに、いちいち感動してるんじゃねぇよ」
だけど。
続いた台詞に息を止める。
「いい加減、慣れろ」
言葉を失う。
「……悟空?」
その場に立ちつくしていたところ、耳に少し訝しげな声が聞こえてきた。
「ご、ごめん。えっと……」
もう。なんだって、この人はいつも欲しい言葉をくれるんだろう。
涙が溢れて、頬を伝う。
「馬鹿なこと言ってねぇで、さっさと帰ってこい。いいな」
「うん」
乱暴に目を拭って、携帯を握り締める。
そして。
家に帰るために走り出した。