Don't You Want Me Any More? (8)


結局、淋しくないようにと、ますますアトを残して、三蔵は叔母さんの家にと戻っていった。
まだ少し寒い時期で良かった。隠すのに、不自然な格好にはならない。
このアトは、誰にも見せたくないような、そのくせ、誰にでも見せて回りたいような、そんな矛盾した気持ちを起こさせる。

三蔵がくれた大切なもの。

それを思うと一人でに笑みが浮かんでくる。

そして、夜。
ライブハウスのある駅についたとき、ふと、ここにあるデパートの地下に、三蔵がお気に入りの和菓子屋さんが入っていることを思い出した。
ライブが始まるまでまだちょっと時間があるし、デパートが閉まるまでにもまだ時間がある。ナタクとは現地集合にしてあった。
ライブハウスに和菓子を持ってくのもどうかとも思ったが、そんなに大きくないのならリュックに入る。
三蔵が帰ってくるまでには日があるから、生菓子はダメかもしれないけど、何か日持ちのするのもあると思う。
何より三蔵が帰ってきたときに喜んでほしいな、と思った。

だから、駅から出て、デパートへの道を歩いていった。
そのとき、通りの向かい側に目をやったのは偶然だった。
二車線の車道を挟んで、向こうの通りに金色の髪が見えた。

三蔵。
一瞬の出来事で、すぐに人込みに紛れてしまったが、そう思った。

ここでは金髪もそうめずらしいものでもない。
髪を染めた人も、本物の外人さんもいる。

だけど、あれは三蔵だった。
確信を持って言える。
三蔵と、それから――。

向こう側に渡るのに手間取り、三蔵がいた場所についたときには、その姿はもう影も形もなかった。
ふと、三蔵が出てきたとおぼしき店を見上げる。
白亜の綺麗な建物。宝飾店だ。

ふらふらと中に入った。
普段なら、こんなお店、場違いすぎて入れたものじゃない。
だけど、このときは何も考えてなかった。

閉店間際の店内は客もいなくて、静かだった。
こんな時間から入ってくる人などいないからか、誰も俺のことなど気にも留めていないようだった。

「さっきの、絵に描いたようなカップルだったわね」

と、店の奥から囁くような声が聞こえてきた。

「男の方、玄奘グループの御曹司らしいわよ」
「へぇ。ご婚約かしらね。ダイヤの指輪、見てたわよ」

その言葉に、世界が暗転したような気がした。

三蔵。
なんで――。