Don't You Want Me Any More? (9)
携帯の着信音がした。
無意識のうちにリュックから取り出して、通話ボタンを押す。
「もしもし、悟空? お前、今、どこにいるんだ?」
ナタクの声が聞こえてきた。
「なか、探してみたけど、みつかんないから電話してみたんだけど、繋がったってことはまだこっちに来てないのか?」
なか……?
そうか、ライブ……。
のろのろと思考力が戻ってくる。
「もしもし、悟空?」
ここはどこだっけ……。ライブハウスは、どっちだろ……。
暗がりの歩道。
どこかの裏道だろうか。
見知らぬ場所のガードレールに腰かけて。
どうして、こんなところで。
あの店から出たあとの記憶があいまいだ。
あの店……。
「ごめん……ナタク……」
立ち上がろうとして、震えてうまく立てないことに気づく。
「俺……、ちょっと、今日は行けない……」
「悟空?」
「ごめ……」
「悟空、どうかしたのか? 今、どこにいる?」
ナタクの声の調子が変わる。
「ごめん、大丈……夫……。大丈夫、だから」
涙声では説得力がないのはわかってる。でも、どうしようもない。
「大丈夫って何が? 何かあったのか?」
何か……。
「ナタク、この間の三蔵……さんだけど……」
婚約するって本当?
言いかけた言葉を飲み込む。
そんなの、聞いてどうしようというのだろう。ナタクが知っているとは限らない。
それに。
そうだよ、という返事は聞きたくない。
「ごめん、何でもない。ごめん、後で連絡するから。ごめん……」
ナタクからの返事を待たずに電話を切る。
そのまま、電源も切って。
三蔵――。
携帯を握りしめた。