Don't You Want Me Any More? (13)


凄い勢いで走ってくる。
三蔵が。
あの、三蔵が。
それはなんだか不思議な光景で。
近づいてくるのを、ただ見守っていた。

「焔、てめぇ、ふざけたことを――」
「別に何もしていないが。ご覧の通り、触れてもいない」

詰め寄ってくる三蔵を、宥めるように焔が両手をあげた。
今にも焔に掴みかかりそうだった三蔵がその言葉に足をとめた。
どうやらそれが本当だとわかったらしい。

「――というわけだ、悟空。俺には、こいつがそれほど懐の深い人物には見えない。お前だけでいっぱいいっぱいだろう」

焔がこちらを向いて言う。

「何の話だ」

三蔵の眉間に皺が刻まれる。
が、焔は三蔵を無視する。

「今度から泣かされることがあったら、すぐに俺のところに来い。いいな」

焔に優しく抱きしめられた。
なんだか呆然としてて、抵抗することも忘れていた。

「焔っ!」

怒った三蔵が手を伸ばすよりも早く、焔が身を引く。

「これくらいはいいだろう。減るもんじゃあるまいし」
「減る」

三蔵の答えに焔がふっと笑みを浮かべた。

「なら、悟空を泣かせた罰だと思え」

それから俺の方を向いて。

「じゃあ、悟空、またな」

手を振って、あっさりと焔が去っていく。
それをやっぱり呆然と見送った。

「悟空」

やがて三蔵の声が聞こえてきた。
すぐ近くにある紫暗の瞳。
それは怒ってでもいるかのように鋭く。

怖い。

瞬時にそう思った。

今まで、三蔵といて、ただの一度も感じたことのない感情。

三蔵の目が怒っているから、怖いのではなく。
三蔵の言葉が、怖い。

三蔵の口から、あの女性のことを聞くのが怖かった。

とても、怖い――。

三蔵が近づいてきて、思わず逃げ出しそうになる。
だが。

「一人で泣くな、と言っておいた」

今度は、三蔵にふわりと抱きしめられた。