Don't You Want Me Any More? (14)


優しい、確かな腕の感触に、思わず力が抜けていく。

だけど――。

その瞬間、ふっと微かに良い香が漂った。
甘い香。
さっきまで全然気づかなかった。ここまで近づくまで、全然。

三蔵は、香水はつけない。それにこれは男性用ではないと思う。

では、これは。
これは、どういうこと――?

「お前が気にしてるのはこの間、パーティ会場で一緒だった女性のことか? あれは別に何でもないぞ」

三蔵の声が遠くから聞こえてくるような気がした。

体が、すっと冷たくなっていく。
血の気が引いていくのがわかる。

「悟空」

更に近くにと引き寄せられ、また香が漂った。

「やだっ!」

思わず身を振り解く。
頭の中にガンガンという音が鳴り響く。

信じればいい。
三蔵の言葉を。

そうすれば、一緒にいられる。
ずっと一緒にいられる。

だけど。
だけど、あの香は。

あんなにも近くからする香が、この人がもう他の人のものなのだとはっきりと告げる。
だから、騙せない。自分を騙すことはできない。

でも。それでも――。

頭の中が混乱し、なにがなんだかわからなくなってくる。

「悟空」

伸びてくる手から身を躱し、逃げ出す。
全てから。
何もかも、全てから。

「悟空っ!」

そして、一際大きな声と、大きな音と、大きな衝撃。

痛みと冷たい感触。
アスファルトの地面がすぐ目の前にあって。
意識が遠くなっていく。

なにがなんだかわからない。
もうそのまま意識を手放してしまおうと思ったとき。
ふと、目の前に信じられないものが飛び込んできた。

「三蔵っ?!」

それは血に染まった三蔵の姿だった。