Don't You Want Me Any More? (16)


「小猿ちゃんさ、何を思いつめているのか知らないけど、お前のせいってことはひとつもないぞ」

病院から家に送ってもらう途中で突然、悟浄が口を開いた。
少し驚いて、運転している悟浄の横顔を見つめる。
そこに浮かんでいるのは、運転しているからというだけではなく、いつになく真剣な表情。

「なんかさ、そういう顔には覚えがあるからな」

相変わらず、前を向いたままで悟浄が言う。

「なんでも、自分が悪いんだと思っている顔」
「悟浄」
「そんなのわかるわけないとか思ってる?」

少し軽い、いつもの悟浄の口調に戻る。

「それがね、俺もいろいろと苦労してるからね。俺さ、正妻の子じゃないんだよね。父親の浮気が元で生まれた子。しかも、その父親ってやつがいい加減なやつで、俺を正妻に押しつけて、こりもせずふらふら遊びまわっているようなやつで」

すっと悟浄の手が伸びて、ダッシュボードから煙草を取り出して、火をつけた。

「育ててくれた母親は、俺を見てよく泣いてたよ」

その言葉にはっとして、悟浄の顔を見直した。
静かな表情。
悲しみも苦しみも通りこした先の静かな表情。

「ずっと、俺が悪いんだと思ってた。俺が悪いんだから、俺が変わればいいんだと思ってた。だけどそれは結局、何の解決にもならなかった」

赤信号に差しかかり、車が止まった。
悟浄がこちらを見た。

「お前がお前であるってことは、全然悪いことじゃない」
「悟浄、なんでそんなこと……」
「気のせいかもしれないがな。そうだったら笑って聞き逃しとけ」

信号が青に変わり、悟浄はまた前を向いて運転し出す。

「お前、時々、あの頃の俺と同じような表情をするからな。三蔵といて幸せそうに笑っているときにも、ふとした拍子にな。だから、妙に気になる」
「悟浄……」
「さて、と。そろそろだぞ」

マンションが見えてきた。静かに車はその前で止まる。

「あんまり馬鹿なことは考えずに寝ちまえ」

ドアを開けると、そう声をかけられた。

「そして、起きたら電話しろ。迎えにきてやっから」
「うん。ありがと……」

手をあげて、悟浄が去っていく。

全然、そんなこと、思ったことなかったけど。
今、話を聞いて。
その表情を見て。

もしかしたら、悟浄は俺に一番近いのかもしれない。
遠くなっていく車のテールランプを見つめながら、そう思った。