Don't You Want Me Any More? (18)


雨が降ってきた。

辺りはもうすっかり暗くなっていて、通りかかる人など誰もいなくて、雨の音だけが響いていた。
雨に濡れないようにと、体で庇っていたぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。

思い出すのは、三蔵に初めて会った日のこと。
あの日も、こんな風に夜になって雨が降り出した。

違うのは、いくら待っても三蔵は来るはすがないということ。

それがわかっているのに、なんで……。
なんでここにいるんだろう。なんで動けないんだろう。

バシャバシャと、水溜りを撥ねかす音がした。
一瞬、顔をあげそうになって、でも、そんなはずはない、と否定する。
きっと、ただの通りすがり。
だって、三蔵は病院にいるのに、期待するなんて馬鹿みたいだ。

「悟空!」

だけど、声がした。

「悟空……っ」

同時に強く抱きしめられた。

あまりに強い力に、息もできなくなる。
この声は。
この腕は。

「さ……んぞ? なんで……?」
「なんで? それは、俺が聞きたい。なんだって、こんな……こんな、突然、姿を消すなんて真似……っ!」

さらに強く抱きしめられ、ふと目の端を白いものが掠めた。
白い――真新しい包帯。肩から胸にかけて巻かれている白い包帯。そして、見上げれば額にも。

「ごめ……んなさ……、俺の、せい……」
「お前のせいじゃねぇよ、お前が悪いわけじゃねぇ。まさかお前、それで……」
「でも、俺が、ちゃんと離れていれば……っ!」

三蔵を押しやって、その腕から抜け出した。

「知らない振りなんかしないで、ちゃんと離れていれば、こんなことにならなかった。離れなきゃいけなかったのに……。俺が……俺が、三蔵の一番じゃなくなったのがわかったときにちゃんと……」

でも、見なかったことにした。
知らないふりをした。
それでもそばにいたい。そんなことを思って。

そして、そのせいで三蔵を傷つけた。

「約束、したよね……。困らせたりしないから、ちゃんと、いらないって切り捨てて。同情しなくてもいい。俺は、大丈夫……。大丈夫、だから」