Don't You Want Me Any More? (19)


壊れてしまえばいい。
この想いごと、この心が全部。

俺を一番大切に思ってくれる人など、いるはずがないのだから。

そんなこと、最初からわかっているはずなのに、それでも期待する愚かな心など、壊れてしまえばいい。

そして、残るのは絶望だけ。
それが俺にはふさわしい――。

「いらないわけねぇだろう」

そう思っていたのに。
本当にそう思って何もかもが終わりになる言葉を待っていたのに。

そっと引き寄せられた。
優しく、まるで壊れ物を扱うかのように抱きしめられる。

「どうしてそんなことを……。どうして一番じゃないなどと。一番大切なのは、お前に決まってるだろう」
「さん……」

まったく予想もしていなかった言葉に目を見張る。
大切……?
俺が、一番、大切……?

「でも、だって……」
「お前が見かけたという女性のことか? 彼女は別になんでもないと言っただろうが」
「でも……でも……、香水……」

不意に涙が溢れてきた。
ずっと泣かないようにと堪えていたのに、ふわりとあの時の香が蘇ってきて。

「三蔵……から……香水……」

止めようとしても止められない。

この優しい手が、他の人のものだというのが悲しい。
ただ、悲しい。

「悟空……」

こんなふうに声をあげて泣くつもりなどなかったのに、涙はどうしても止まらない。
止めることができない。

駄目だと思うのに。
胸が痛くて、止めることができない。

「悟空、それはお前の誤解だ。だから、泣くな。もう、そんなふうに泣くな」
「誤……解……?」
「そうだ」

涙が止まらぬまま顔を上げる。
泣いているのは俺なのに、なぜか三蔵も同じ痛みを感じているかのような表情をしていた。

「悪かった。ちゃんと最初から話しておけば良かったな」

そっと目にキスが落とされた。涙が唇で掬いとられる。

「彼女とは本当になんでもない。香水の匂いがしたというのなら、それはたぶん、彼女が貧血を起こして倒れかかったときに支えてやったからだろう。ずっと気を張って無理をしていたらしい。家人の手に委ねた直後に、焔から電話がかかってきた。だからたぶん、そのときについた香がまだ残っていたんだろう。ただそれだけだ」

囁きつつ、涙の跡を辿っていた唇が離れていく。

「お前以外に、大切なものなどない。だから、もう泣くな」
もう一度、しっかりと抱きしめられた。