Don't You Want Me Any More? (20)
「今さら何を言っても言い訳に聞こえるかもしれないが、ちゃんと話しておいたほうがいいだろう」
抱きしめられた腕の中。
髪を梳くように、ゆっくりと頭を撫でてくれながら、三蔵が言う。
優しい手に、静かな言葉に、あれほどざわめいていた心が凪いでいく。
「お前が見かけた女性は、義父の知り合いの娘さんだ。スイスの寄宿学校に行っていたんだか、日本に一時帰国していて、その間の世話を頼まれた。
仕組まれた見合いのようなものだから普通なら即座に断るんだが、それをしなかったのは、人捜しのために協力してほしい、と彼女が頼み込んできたからだ。
寄宿学校に入れられる前に、無理矢理引き裂かれた恋人の行方を捜したいと。その間のカモフラージュになってくれと。
複雑な事情があったらしく、別れさせられたあと、音信不通のうえ行方もわからなくなってしまったそうだ」
そっと髪にキスが落ちてくる。
「お前が、みんなが大好きな人と一緒で幸せだといい、と言ったのを思い出した」
三蔵の言葉に驚く。
確かに、そういうことを言った覚えはある。
けど、熱を出してて、うわ言みたいに呟いただけで。それなのに覚えていてくれたんだ……。
「だから協力することにしたんだが、お前を泣かせているんじゃ、全然、意味がないな。
彼女が日本にいられるのはほんの一週間のことだし、お前の目に触れることもないと思っていたが、最初から話しておくべきだった。
そうすればあんなふうに泣くこともなかった」
抱きしめられている手に少し力が入る。
「お前だけだ、悟空。俺が大切に思うのは、お前だけ。それは変わりようがない。この先もずっと。信じろ。――いや、信じてほしい」
「三蔵……」
大切。
その言葉が、胸に染みていく。
大切。
俺にとっても、三蔵が一番大切。
大切だから。
三蔵に縋りつくように、一度その胸に顔を埋める。
この腕の中が一番心地良い。一番安心できる。
だけど。
暖かな腕から身を引いた。
「悟空」
少し傷ついたような三蔵の顔が目に入る。
――ごめんなさい。
そんな顔をさせて、本当にごめんなさい。
「信じられないのか?」
問いかけに静かに首を横に振る。
「大切――だから、一緒にはいられない。俺は……、俺は、三蔵を不幸にする」
「何を言って……?」
「俺の目……」
震える手を上げて、目にあてる。
「俺のこの金色の目は、不幸を呼ぶから――」