耳たぶを緩く食む
「……っと」
三蔵は悟空の手から離れたプリンを、テーブルに落下するすんでのところで受け止めた。
危ねぇな、とは思っていたのだ。
おやつの時間だというのに妙におとなしくて、変だと思っていた。
いつもなら大好きなプリンを目の前にして、あんな静かにしてはいない。
もっと騒いでいるはずだ。
外で思いっきり遊んできたからかもしれない。
さきほど公園から帰ってきたばかりだった。今日は悟浄と連れだって出て行ったのだが――。
そこで、三蔵は隣の部屋にと目を向けた。
隣のリビングでは、床に悟浄が転がっていた。
俯けに突っ伏してまるで討ち死に、といった風情である。
全力で遊ぶ子供の相手をすることは意外にたいへんだ、ということなのだろう。
が、だらしなく転がっているところはあまり褒められたものではない。
三蔵はふいっとまた視線を悟空に戻した。
悟空は半分眠ったような表情で、ほとんど電池が切れかかってるような状態だ。
「ほら」
それでも食い気は勝るのか、なにもないというのに、口だけはむはむ動かしている悟空の手からスプーンを取りあげると、三蔵は悟空を抱き上げた。
ぽやんとしたまま、悟空が手を頭の後ろに回してくる。
体を預けてきて、それで。
「……っ!」
びっくりして三蔵は悟空を落としそうになる。
はむはむと口を動かしていたその延長か、悟空が三蔵の耳朶に噛みついてきたのだ。
噛みつく――まではいかない。
甘噛み程度だ。
だが、それが――。
「あれ? 感じちゃった?」
と、床から声がした。
ジロリと睨むと、床に寝っ転がったまま目だけこちらに向けていた赤い髪の男が微かに人の悪そうな笑みを浮かべ肩を竦めた。
三蔵は悟浄を睨みつけただけでなに言わず、悟空を抱きなおすと寝室にと向かう。
ベッドに悟空を寝せると、端に腰かける。
見るとはなしに、悟空を見下ろして。
「こっちのが大福みてぇでうまそうなのにな」
つんつんと悟空の頬をつついた。
→おまけ(同一のお題で近い将来のお話)