変奏曲〜variation (4)


 明るい光を感じ、微かに悟空は身動ぎをした。
 ゆっくりと目を開けていく。
 なんだか目が腫れぼったいのは――夢を見たからだ、と思い出す。
 夢。
 時折見る、苦い夢。
 だが、それにしては、夢を見た後でいつも心に残っている重苦しさはなかった。
 悟空は顔をあげ、そして。

「三蔵」

 じっと自分を見つめている瞳に気づいて、驚きの声をあげる。
 そして、あぁ、と思う。
 この人がいてくれたからだ、と。
 だから、あの夢のあとでも大丈夫だったのだと。

「眠らなかったの……?」
「いや」

 微かに笑みを浮かべて三蔵が答える。
 その様子に、胸をつかれる。
 綺麗な人だとはわかっていた。
 だが、淡い朝の光に縁取られて、柔らかく笑うさまは――。

 そっと、悟空は両手を差し伸べた。三蔵の頬を包み込み、顔を近づけていく。
 唇が触れる寸前で、ためらうかのようにその動きは止まった。

「悟空」

 呼びかけて、最後の数ミリは三蔵の方から詰める。
 軽く触れるだけのキスをし、コツンと額を合わせた。

「どうした?」
「……三蔵、ホントにここにいるのかなって」

 三蔵は訝しげな表情を浮かべる。

「凄く綺麗だったから……綺麗で、この世の人じゃないみたいだったから」
「……なんだ、それは」
「だって、本当に――」

 言いかける唇を、柔らかいキスが塞ぐ。

「俺はここにいる。どこにも行かない。わかるな?」

 そして、一語、一語、言い含めるように三蔵が言う。
 その言葉に軽く目を見張り、それから悟空は頷いた。

「それに、そんなに綺麗なものでもない」

 ゆっくりと、のしかかるようにして、三蔵は悟空の体を自分の下に巻き込んでいく。

「え……? さんぞ?」

 大きな金色の目がますます大きく見開かれる。

「ちょっと、待って……だって、起きたばっかりで……」

 三蔵の目に怪しげな光を感じ取り、悟空は慌てたように言い募る。

「だからってできねぇわけじゃねぇだろ?」

 微かに笑いを含んで三蔵が言う。
 するりと手が動いて、悟空のわき腹を撫であげた。

「……あっ」

 ざわりと肌が粟立つような感覚に、悟空の口から微かな声が漏れる。

「今日は一日休みだろ? いろいろと付き合え」

「なに、それ。ちょっと……三蔵っ」

 抵抗しはじめる悟空の体をいとも容易くシーツに縫いとめた。
 昨夜つけた痕をなぞるように唇を這わすと、組み敷いた華奢な体が淡く染まり出す。
 滑らかな肌の感触を楽しむように滑らす手に反応して、熱があがっていく。

 唇から零れ落ちるのは甘い吐息。
 本当に甘いのか、確かめてみたくて、三蔵は唇を重ねた。
 柔らかい感触に、神経の中枢が麻痺するような感覚がする。
 まるで甘い毒。
 もしくは麻薬。
 それなしではいられなくなる。

 だが。
 もっと強く。
 もっと深く。

 高く、甘い声が、三蔵の名前を呼ぶ。
 放射状に皺が寄るほど強く掴まれたシーツ。
 体の強張りが解けるよう、そっとその手に指を絡める。

 できるだけ、痛みは与えたくない。
 欲しいのは、二人で与え合う――快楽。

 なにもかもが溶けていきそうな、熱。
 身体も、心も、すべて。
 全部、溶けて混ざり合って、ひとつになる。

 それは、一人では決して得ることのできないもの。
 だけど、二人いれば誰とでも良いわけではないもの。

 今、ここにいる互いだけが――。

「……さんぞっ」

 悲鳴のような。
 泣き出す一歩手前のような。
 それでいて、甘い声が耳を打つ。

 そして――。

 そして、白い光に包まれる。