変奏曲〜variation (11)
コール三回。
電話が繋がった。
「悟空、お前、どこにいるんだ?」
繋がった途端、三蔵は電話に向かって話しかける。
だが、返ってきたのは沈黙。
「悟空?」
「……ごめん、三蔵。あの……」
ワンテンポ遅れて、少し小さな悟空の声が聞こえてくる。
「あの、ね。ちょっと急に用事ができて、えっと、野外ライブに行けなくなっちゃったんだけど、頑張って。じゃ」
早口でそれだけ言って、電話を切ろうとする気配が伝わってきた。
「待て」
なので、三蔵は機先を制す。
そう言われては、切ることなどできないことをわかっていて。
「……さんぞ」
案の定、電話は切れず、今にも泣き出しそうな頼りない声が聞こえてくる。
「なにがあった? どこにいる?」
「……わかんない」
そう答えたっきり沈黙が返ってくる。
「迷子になったのか? なにがあった?」
重ねて三蔵は問いかけるが、携帯の向こうからはなんの返事もこない。
「悟空。ちゃんと答えろ」
「……本当に、よくわかんないんだ」
焦れたような三蔵の声に、ようやく悟空が答えを返す。
「知らない人にわけわかんないこと言われて……それで、逃げて……。でも、大丈夫」
声は一転して明るいものになる。
「ごめん、もうライブが始まる時間でしょ? 俺は大丈夫。このまま帰るから。いくらなんでも、その人、ウチまでは追いかけてはこないだろうし。暗くなっても、まだ人が多いから大丈夫。ライブ、見に行けなくて、ごめん。頑張ってね」
「だから、待てと言ってるだろう。今、どこだ?」
またもや電話を切ろうとする悟空を止めて、ロッカーの設置してある場所から外へと出ながら三蔵は言う。
「どこって……」
見えはしないが、辺りを見回しているような気配が電話から伝わってくる。
「さっき、めちゃくちゃ走ったから、よくわかんな……、あ、でも、『情報ネットワークセンター』っていう標識みたいのが立ってる」
「そんなに遠くはねぇな。そこにいろ」
「え?」
「今から行くから。念のため、建物の影とかどっかに隠れとけ。電話は切るなよ」
「えぇ? ちょ、ちょっと、待って。だってもうライブが……」
「こんな状態で落ち着いて歌えるか」
「俺なら大丈夫だって。ごめん。ごめんな……」
「謝るな。お前が大丈夫でも、俺が大丈夫じゃねぇんだよ」
「さん……ぞ……」
「いいか。そこにいろよ。今、行くから」
そう言って足早に建物から飛び出し、三蔵は後ろからついてきている八戒、悟浄を振り返った。
「お前らはステージに戻ってろ」
「トラブルですか?」
「あぁ。だが、よくはわからん。とにかく悟空を連れてくる」
「俺も行く。八戒」
悟浄が横を向くと、八戒がため息を漏した。
「わかりました。ちょっと遅れると言っておきます」
八戒は足を止め、きびすを返す。
今の段階では聞いても無駄なのはわかっているので、余計なことは聞かずに。
三蔵はステージを放り出すような真似はしない。
それはわかっているので。
こうして、三蔵と悟浄は悟空のもとに、八戒はステージに、走るようにして急いだ。