旋律〜melody(15)



悟空はそっと頭から被った布団の隙間から辺りを窺った。
もう日が暮れ始め、薄暗くなってきているようだった。
部屋のなかが暗い。

朝、記者達の声が聞こえなくなると、悟空は二階にあがり、そのまま頭から布団を被ってベッドのうえで小さくなっていた。
ずっと。
大丈夫、大丈夫、と自分に言い聞かせながら。
でも。

やっぱりこのままではいけない、と思う。

電話も呼び鈴も切ってしまったが、外から直接声をかけられるのだけは阻止できない。
ピアノのある防音室に閉じ籠っていても良いのだけど、いまの状況は、まるで幼いときのことのようで――。


「……っ」


悟空は急に喉を押さえた。


――息ができない。


口を開けて、息をしようとするけれど、空気ではなく別のものが入り込んでくるようだ。

どんどん、どんどん入り込んできて。
肺をいっぱいにして。
冷たい、冷たいものが――。
そして――。

無意識のうちにシーツを掴む。


――くるし……。


ここは違うのだ、と。
いまはそうではないのだ、と。

頭のなかでぼんやり思うが、でも本当に息ができない。
このまま息ができなくて、死んでしまうのではないか、と思う。
薄れていく意識のなか、助けを求めるように手を差し伸べて――。


――悟空。


不意に『声』が聞こえた。
伸ばした手は空を掴むが、金色の光に包まれる――ような気がした。

ゴホッと噎せる。
続けざまに咳が出る。
苦しくて、涙が出てくるけど――息ができるようになった。

悟空は、しばらく息ができなかった分を取り戻すように荒い呼吸を繰り返していたが、そのうち力が抜けて、ベッドにと沈み込んだ。


「さんぞ……」


小さく呟く。
さっきの『声』は三蔵だった。

もちろん本当に呼んでくれたわけではない。
悟空の頭のなかでのことだろう。
だけど、助けてくれた。
それが本物の三蔵でなかったとしても、悟空にとってはあまり違いがないような気がする。

悟空は大きく息をつくと、のろのろと起き上がった。
ここにいるわけにはいかない。
さっきのように押し潰されてしまうかもしれない。
そうなれば、最悪、本当に命の危険がある。

それは許されない。

生きる、と。
そう選択したのだから――。

悟空は適当に着替えを取り出すと、まだ震える手をどうにか制御して身につけだした。